過去2年、ニールセンクモヒメバチ幼虫・成虫の時系列比較トランスクリプトミクスに注力してきたが、発現定量解析の基準としていたリファレンス配列は、ゲノム情報が存在しなかったためトランスクリプトーム配列を基に構築した擬似的なものを利用せざるを得なかった。それでも上手く解析できることは十分期待されていたが、現実的には検出されるDEGのTPM値が異様に高いといった難点を呈したため、全ゲノムによる発現定量解析の再実施を目的とし、ニールセンクモヒメバチおよび同じく解析対象としている同属別種の全ゲノム決定を目指した。 ハチ成虫から抽出したゲノムをChromium Controllerによってエンリッチメントし、MiSeq によって全ゲノムシーケンスする方針を採った。破砕法を検討しながら最適条件を探りつつ抽出を繰り返し、特に長さの点(60Kbps前後)で最も成績のよかったサンプル上位2つをエンリッチメントおよびシーケンスに供した。ただし、抽出量は3~5ng/ulと非常に少ないものであった。結果としては、いずれの配列もクオリティが低く、ゲノム抽出自体に問題があることが示された。 その後も、近縁ヒメバチのテストサンプルを用いて抽出キットも複数試すなど、破砕や抽出の条件検討を繰り返したが、1個体抽出では長さと量を両立させた最適な条件を得るには至れず、課題を残した。ここには技術的な問題だけではなく、小型のヒメバチ類が1個体のみでは十分量の長鎖DNAを得るのが難しいという生物学的な特質が存在する可能性もある。そのため、今後(1)Chromium ControllerとMiSeqによる配列決定からMinion (Nanopore)に変更し、(2)1個体からの抽出をやめ、20Kbps以上でDNA量が合計で1ugになるよう複数個体をプールする、という方針に変更する。
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