研究課題/領域番号 |
17J40082
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
葛西 リサ 立教大学, コミュニティ福祉学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ひとり親 / 母子世帯 / シングルマザー / 地方移住支援 / シェア居住 / 地方創生 / まちづくり / 就労支援 |
研究実績の概要 |
地方創生事業の一環として、全国各地で実施されている、シングルペアレント(SP)移住支援事業の評価を行うために、平成29年度に続き、①移住者、②行政担当者、③既に聞き取りをした対象への継続調査(4名)への聞き取り調査を実施した。本研究では、移住支援を4タイプに分類し、移住動機や生活事情を分析した。例えば、1)介護職や保育、看護職に就くことを約束する移住者へ手厚い支援制度を提示する地域(以下、特定職種優遇型)、2)従来型のUJIターン向け制度を活用するのみでSPへの特別な支援はないが「ひとり親」というキーワードを利用している自治体、3)従来型のUJIターン向け制度をSP向けに少し拡大し、加えて、SPの就労自立を支援するために特定の企業を誘致して高等技術等の訓練制度を設ける自治体(移住者は必ずしも、同制度を利用する必要はなく、自身のペースで就労自活を目指すことができるという利点がある。)、4)移住者、既存住民にかかわらず、子育て世帯への支援の充実させたことで意図せずSP移住者が増えた事例などである。特定職種優遇型では、従前の生活の行き詰まりからのステップアップを目指すために移住を決めたという声が圧倒的に多かった。このグループでは、移住したことにより逼迫した生活から脱却できたなどのメリットが聞かれる一方で、手厚い支援が準備されているがゆえ、地域で目立ってしまう、自由がないなどの不自由さが多く語られていた。特に、職場では、地元出身のSPが薄給で支援なく働いているため、移住者のみ優遇されていることに引け目を感じるなどの声が挙がった。その他、支援メニューカスタマイズ型では、仕事や自活への興味よりも、移住そのものに興味がある、あるいは、子どもの生活環境を変えたいなど別の要因が働き、移住に至っている傾向が高いことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、3自治体に移住したシングルペアレント(以下SP)6名(昨年度含め総計18名)に対する聞き取りを行った。なお、18名のうち、4名に対しては2度目の聞き取り調査(継続調査)が実現した。 また、2018年10月14日にひとり親の移住を支援する自治体で構成されるひとり親移住支援ネットワークが東京都内において実施した相談会において、参加自治体(北海道幌加内町、徳島県美馬市、群馬県上野村、島根県浜田市、長野県須坂市、山形県(小国町、酒田市)、兵庫県神河町、静岡県伊豆市、)に事業の実態について聞き取り調査を実施した。このほか、北海道羽幌町、愛媛県久万高原町、大分県国東市の移住状況を確認した。結果、実際に移住者を安定的に受け入れているのは、4自治体という結果であった(2018年10月14日現在)。このほかの地域に至っては、相談なし、あるいは相談が移住に全く結びついていないという状況であった。以上のように、本研究では、移住支援事業を実施しているほとんどすべての自治体への聞き取り調査を実施し、その類型ごとに、課題やメリットを整理することができている。なお、移住者についても、総数としては少ないものの、同事業を活用して移住した事例の8割の実態を把握できている状況である。加えて当初の想定であった、孤立を抑止するための地方移住者向けシェアハウスの構想についても、各自治体への聞き取り調査を実施し、その可能性を整理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、引き続き、シングルペアレント(SP)を対象とした移住支援事業を実施している自治体への継続調査及び新規導入を検討する自治体等への追加調査を実施しつつ、SPにとって望ましい移住支援事業の在り方について検討を進めたい。 なお、新たな対象事例としては、福島原発の事故による自主避難者が多数移住した、岡山県を対象にSPが移住する上での課題、移住時に欲しかった支援等を浮き彫りにしていきたい。特に、岡山県S市では、移住者が低家賃で居住でき、また新たな土地でコミュニティが築きやすいように、移住SP向けのシェアハウス(SH)が複数開設、運営された実績を有する。移住SPは、土地勘のない地域において、孤立しやすく、これを抑止する仕組みが求められているところである。また、移住しても、仕事と育児の両立困難に陥る事例もあった。この移住SP向けSHは、移住者のコミュニティの構築、ひいては、ケア負担の軽減に役立つ住まい方として、提示できる可能性が高い。関係者、当事者へのヒアリング等に関しては、NPO法人Hの協力を仰ぐ予定である。こういった事例の検証を通して、SPにとって望ましい移住の在り方を提示したいと考える。
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