研究課題/領域番号 |
17J40083
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 彩子 東京大学, 生物生産工学研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質アシル化修飾 / ロイシン生合成 / CoA体代謝 / Thermus thermophilus / 高度好熱菌 / 短鎖脂肪酸 |
研究実績の概要 |
①高度好熱菌Thermus thermophilusにおけるロイシン生合成酵素のアシル化修飾による活性調節機構 ロイシン生合成初発酵素の2-isopropylmalate synthase (IPMS)について、これまでに明らかにしてきた、可逆的なアセチル化による活性調節機構に関しての投稿論文が受理された。 またスクシニル化修飾を受ける3-isopropylmalate dehydrogenase (IPMDH)の(脱)スクシニル化機構の解析を行い、少なくとも非酵素的にスクシニルCoAを基質としてスクシニル化が進行することが分かった。さらに、T. thermophilusのリジン脱アシル化酵素(KDAC)破壊株の解析から、in vivoでIPMDHの脱スクシニル化を担うKDACを同定した。 ②T. thermophilusのCoA体代謝酵素の活性制御機構 T. thermophilus内で高度にアセチル化されているCoA transferase (CoAT)はNAD+結合タンパク質との相互作用によってNAD+依存的に活性が調節される。この相互作用様式や活性調節機構の解明のためX線結晶構造解析を行っているが、結晶は得られるものの構造決定には至っていない。この制御機構の生理的役割を明らかにするため、CoATの基質となる短鎖脂肪酸の定量系を確立した。 また同じくCoA体代謝に関連し、アセチル化による制御が広く知られているアセチルCoA合成酵素(ACS)についても、T. thermophilusの持つ4つのホモログに関して機能解析を行い、うち1つのホモログがACS活性を持たないことが分かった。また、各遺伝子破壊株の解析から、アセチル化以外の活性制御機構の存在を示唆するデータも得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロイシン生合成酵素のタンパク質アシル化修飾による活性調節機構において、初発酵素2-isopropylmalate synthase (IPMS)のアセチル化による活性調節機構に関して論文を発表した。活性中心のリジン残基がスクシニル化修飾されることが見いだされている3-isopropylmalate dehydrogenase (IPMDH)に関して、細胞内で脱スクシニル化を担う酵素を同定できた。しかしながら、スクシニル化レベルに差のあるIPMDH間で活性の違いは見られておらず、スクシニル化と活性調節の関係は見いだせていない。 CoA体代謝酵素の調節機構に関しては、CoA transferase (CoAT)と相互作用するNAD+結合タンパク質との複合体の結晶構造解析を進めているが、構造決定には至っていない。また、CoATの生理機能の解明のため、菌体内の短鎖脂肪酸やNAD+/NADH比の定量法の確立を進めている。アセチルCoA合成酵素(ACS)に関しては、T. thermophilusが持つ4つのACSホモログのin vitroでの機能解析から、4つのうち1つのACSホモログを除いて、ACS活性を持つことが分かった。さらに、それぞれの遺伝子破壊株を作製し、その生育実験から、アセチル化とは別の活性制御機構が存在することを示唆するデータを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
ロイシン生合成酵素IPMDHのスクシニル化による活性調節に関しては、これまでスクシニル化による活性への影響は見られていない。これまでin vitroでの非酵素的なスクシニル化反応によってIPMDHをスクシニル化し機能解析を行ってきたが、T. thermophilus内ではタンパク質リジンアシル化酵素(KAT)によってスクシニル化修飾されている可能性もあるため、IPMDHをスクシニル化するKATの探索を行い、スクシニル化による活性への影響を調べていく。また、プロテオーム解析により同定されているその他のスクシニル化される代謝酵素に関しても、スクシニル化による活性調節の有無について検討する。 CoATと相互作用タンパク質との複合体の結晶構造解析については、これまで結晶は得られているが、構造解析には至っていないため、発現・精製方法の刷新やホモログタンパク質を用いた結晶化などを検討していく。また、CoATやその制御の生理的意義を明らかにするため、培養時期や培地条件などによる短鎖脂肪酸、アセチルCoA、NAD+/NADH比などの代謝産物の分析を行う。それと共に、CoATが触媒する可逆的な反応の方向性について詳細に解析することでCoATの生体内での役割に関する知見を得る予定である。 また、T. thermophilus内に4つホモログが存在するアセチルCoA合成酵素(ACS)について、これまでの機能解析から1つのホモログが別のホモログの活性発現を制御している可能性が示唆されている。このため、酵素レベルでの制御にとらわれず、遺伝子発現解析なども行い、これまでに知られているアセチル化による制御とは異なるACSの制御機構を明らかにしていきたい。
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