研究課題/領域番号 |
17J40087
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
白井 聡子 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | 川西民族走廊諸語 / チァン語支 / チベット=ビルマ語派 / 地理言語学 / 動詞接辞 / 方向接辞 / 代名詞 / ダパ語 |
研究実績の概要 |
川西民族走廊チベット=ビルマ系諸言語における地域特徴を解明するため、[1] 現地調査を含むデータ収集、[2] データベース化および言語地図化、[3] 動詞接頭辞の一つである方向接辞の分析などに取り組んだ。その成果を、国内外の学会において口頭発表したほか、英語論文の形にして発表した。 [1] データ収集については、最新の出版物の入手、学会・研究打ち合わせ等における最新の研究資料の入手のほか、中国四川省における現地調査を行った。調査渡航期間は2018年2月28日から3月11日、調査対象言語はダパ語メト方言および未記述方言(カラケ方言、ニャト方言)である。使役化、名詞化、主題、および、未記述方言の基礎語彙について新たな一次資料を得た。 [2] 過去に収集した一次資料のドキュメンテーション、分析、入力を進めたほか、臨時雇用を依頼するなどして最近の資料からの入力作業を行い、その分析も進めた。そのデータベースを元に、言語分布地図の作成を進めた。川西民族走廊において話される106地点の言語および方言を示す地図、最新の系統分類仮説や基礎語彙の分布を示す言語地図等を作成した。これらの言語地図に地理言語学的分析を加え、口頭および論文の形で発表した。また、動詞を含む文法現象の一例として「雨が降る」を意味する節を取り上げ、地理言語学的分析を行って、口頭発表および論文執筆を進めた。基礎的代名詞の分布について地理言語学的分析を進めた結果、最も借用されにくいとされていた語彙の一つである一人称代名詞についてもチベット語から借用されている可能性があることが分かった。 [3] 方向接辞については、ダパ語データをもとに、特にアスペクト表示機能に注目して詳細な分析を進め、論文を執筆し発表した。また、他のチベット=ビルマ系言語、特にギャロン語と対照して分析を行い、文法化の段階に関する仮説を立てて、口頭発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画としては、(1)動詞形態法対照データベース作成に着手、(2)ダパ語一次資料ドキュメンテーション、(3)現地調査、(4)学術交流、研究討議、成果発表があった。全体としてはおおむね順調に研究活動を進めることができた。詳細は以下のとおりである。 (1)データベース作成については、今後のベースとなる、100を越える言語・方言の地理情報を含むリストを作成し、基礎語彙の入力、一部の地図化を行うことができた。これはおおむね計画通りに進展していると言える。 (2)ドキュメンテーションについては、過去に収集した民話資料等の文法分析とデータ入力を行った。また、現地調査であらたに入手した資料の分析と入力も行った。おおむね計画通りに進めることができた。 (3)現地調査については、子供の預け先確保や調査予定地の政情不安などの問題が生じ、たびたび予定を変えて、最低限の期間での実施となった。そのため、収集できた一次資料が、量の面では予定していたよりも少なくなった。一方で、協力者の紹介もあって、未記述方言(ダパ語ニャト方言、カラケ方言)の話者とあらたに面識を得、基礎的調査を行うことができた。以上のことを考え合わせると、現地調査の期間・量が当初の計画に比べて不足しているものの、それを埋め合わせるだけの質の高い調査ができたと言えるだろう。 (4)海外での学会を含む多くの学会・研究会への参加を通じて、予想以上に、研究交流および最新の情報収集を多く行うことができた。これらをとおして研究の進展を図ることができ、その結果、8編の論文発表(そのうち第一執筆者であるものは4編)、7報の口頭発表を行うことができた。また、すべての論文執筆と、口頭発表のうち4報を英語で行ったため、国際的な学術交流を進めることができた。以上のことから、学術交流・研究討議・成果発表の面では、当初の計画以上に進展があったと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) データ分析・入力について。名詞化接辞、主題化と動詞形態の相関、アスペクトと方向の相関に注目して、動詞接辞の分析を進める。川西民族走廊諸語間で対照し、データベース作成を進める。これまでの資料収集で、ゴチャン(クイチョン)語、アルス語等について文法資料が得られたので、分析を行い、その成果をデータベースに反映させるため、データ入力の研究補助を依頼して、作業を進める。さらに、ドキュメンテーションと最新の資料収集を継続し、データベースを充実させる。 (2) 現地調査について。名詞化接辞、主題化と動詞形態の相関、アスペクトと方向の相関について、(1)のデータ分析をとおして質問票を作成した上で、ダパ語、スタウ語の現地調査を実施して、詳細な一次資料を得る。文脈の中での動詞接辞の機能についても分析を行うため、民話などのテクスト資料を収集する。これら一次資料の分析結果を、周辺言語および他地域の同系言語と対照する際の軸とすることで、有意義な対照研究を進めることができる。 (3) 成果発表について。テクスト資料を用いて主題化と動詞形態について考察した成果をまとめ、口頭発表を行う。また、国際会議に参加し、地理言語学的研究の方法論、比較言語学的研究との補完効果に関する研究討議を行う。これらをとおして、今後の分析を充実させる。また、方向接辞の形式と機能に関するデータベースを作成し、地理言語学的分析を行って、国際会議において発表する予定である(応募中)。この研究討議を経た上で、論文を執筆し、学術誌に投稿する。動詞接辞の地理言語学的分析を行う際には、基礎語彙に関する等語線の確定も不可欠であり、そのために基礎語彙の言語地図も作成し、分析を行う。さらに今年度後半には、名詞化接辞についても分析を進め、研究発表を行った上で、論文執筆に向けて準備を進める。
|