研究課題
小児神経発達障害は、近年の大規模なゲノム解析により様々なゲノム変異が症状の発現に関わっていることが明らかになってきている。関連遺伝子の種類は多岐に亘るが、遺伝子変異は百人百様であり、メジャーな遺伝子が存在するわけではない。本研究の目的は、小児神経発達障害患者における希少変異が引き起こす神経細胞レベルの病態を効率良く解析する系を確立させ、表現型の観察だけでは分からない分子レベルの疾患概念を確立させることである。これまでの研究において既に複数の患者由来疾患iPS細胞株を用いて病態解析を行ってきた。PiggyBacベクターを用いて遺伝子導入し、転写因子を強制発現させることによって迅速に神経分化誘導を行うことができる系を確立させている。ただ、迅速分化誘導とは言え、実際には完全に成熟した神経細胞を得るには60日程度の培養が必要であり、長期培養の間に長く伸長した樹状突起が培養Dishから剥がれてしまうなどの問題があり、必ずしも効率的な方法ではない。そこで試行錯誤の結果、胎仔マウスから採取した初代培養アストロサイトと共培養することによって、安定的に成熟神経細胞が得られるようになった。培養Dishに用いるコーティングも重要である。ただし、コーティング剤は培養液との組み合わせも考慮する必要があり、今年度は特にこの点について検証を進めた。アンチセンスオリゴを投与して遺伝子ノックダウンさせ、表現型を観察する場合、ある程度成熟した神経細胞を用いるが、一定の分化レベルに達した状態の細胞を常に使用する必要がある。より安定的な分化誘導を行うのに適した培養条件を模索した。分化誘導を開始する前のiPS細胞の維持培養についても同様に検討した。コロニー形成の状態ではなく拡散培養でも安定的に維持できる可能性が高いことが明らかになってきた。得られた知見をもとに、遺伝子ノックダウンを行って表現型解析に着手したい。
2: おおむね順調に進展している
今年度は前半に研究中断期間があったが、再開後は順調に研究をすすめることができた。
疾患iPS細胞を再現する手法としてアンチセンスオリゴを神経細胞へ投与してその表現型の解析を計画している。昨年度に実施した、ゲノム編集による目的遺伝子のノックダウンを行ったiPS細胞を用いた神経分化細胞での表現型との間に違いがあるかどうかを調べる。神経細胞は発生初期に分裂増殖が盛んな細胞であり、神経分化誘導の過程においてアンチセンスオリゴを初期に投与する場合と、神経分化を進めた時点で投与する場合とではその効果が異なることが予測される。また、投与量の違いによっても効果が異なることが予想されるため、実験を重ねて条件を検討する。細胞レベルでの解析については、これまでの免疫染色や電気生理学的解析に加えて、スパインにおけるレセプターを可視化して評価する方法を予定している。さらに、治療薬となりうるような薬剤の投与によって、病態の回復が見られるかどうかまで検討できればと考えている。並行して、新たな小児神経発達障害患者における網羅的な遺伝子解析もすすめ、新規原因遺伝子の発見を目指す。
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すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件) 学会発表 (9件)
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