小児神経発達障害は、近年の大規模なゲノム解析により様々なゲノム変異が症状の発現に関わっていることが明らかになってきている。関連遺伝子の種類は多岐にわたるが、遺伝子変異は百人百様であり、メジャーな遺伝子が存在するわけではない。本研究の目的は、希少な小児神経発達障害におけるゲノム変異が引き起こす神経細胞レベルの病態を効率よく解析する系を確立させ、表現型の観察だけではわからない分子レベルの疾患概念を確立させることにある。 当該研究員のグループは、これまでにXq22領域の微細欠失によって高度な発達障害を来すことを明らかにしてきた。このうち1例は女性であったことから、X不活化の影響を逃れる遺伝子が患者の病態の原因であることが推測された。そこでこの患者由来細胞から樹立した疾患iPS細胞を複数樹立し、そのモノクローナル化した細胞クローン間で欠失範囲内に位置する遺伝子のうち、不活化の影響を免れる遺伝子を探索した。 具体的には複数のiPS細胞クローンからRNAを抽出し、遺伝子発現をRT-PCR法で解析した。まず最初にクローン間でハウスキーピング遺伝子の発現差がないことを確認した。次に欠失範囲に存在する遺伝子のうち、X不活化の影響を受けることがよく知られている遺伝子としてPLP1遺伝子の発現を調べたところ、1つのクローン以外はPLP1が発現していた。このことはX不活化のアンバランスがあることを示唆していた。PLP1が発現していないクローンは欠失を持つ染色体側が優先的に不活化されていると考えられたため、このクローンで発現している遺伝子を調べたところ、BEX2はすべてのクローンで発現していることが明らかになり、X不活化の影響を免れていると考えられた。 当該患者は、BEX2の発現が相対的に低下していることが考えられ、このことがこの患者における神経発達障害に関わっている可能性が示唆された。
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