研究課題/領域番号 |
17J40112
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山根 ゆか子 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 自由視 / 視覚情報処理 |
研究実績の概要 |
自由視中のサルの視覚野の活動(ニューロンの平均発火頻度)が、行動の文脈依存的に変化する現象ついて、様々な方式で注視のパターンを分類し、その時の平均発火頻度を比較した。その結果、視覚刺激提示後、はじめて物体に目を向けたときと、その後に同じ物体に目を向けた時とで発火頻度に違いがあることがわかった。ある物体に一度目に目を向けた場合と、他の物体を見て、再びもとの物体に目を向けた場合とでは、網膜像の変化としては、類似しているはずだが、約30%の細胞で、発火頻度が有意に低下していた。このことは、単純な「ニューロンの疲労」としては説明がつかない。しかし、視覚情報処理を外界の分析という観点ではなく、外界の予測という観点でみることによって説明がつく。このような考え方は広く、「predictive coding」とか、「Bayesian brain」という言葉で議論されており、free viewing 課題において具体的にそのような情報処理の証拠を示した例はない。このような考え方は、実際の脳における実装方式について未だに議論があり、いくつかの方式が提案されている。現在、実際に観察されたニューロンの記録位置(皮質層の位置)や発火パターンと、これらの提案されている理論が予測する発火パターンに整合性があるかどうかを判定することができるかどうか検討中である。 また、ニューロンごとの刺激選択性と、繰り返し注視による発火頻度の低下との関係を調べるために、刺激選択性の強さの指標であるsparseness、kurtosis、entropy等を注視の種類ごとに計算してみると、どの指標も、一度目に物体に目を向けた場合は、2度目以降に比べて刺激選択性が低いことがわかった。このことは、注視を繰り返して行く過程で、注視する物体の脳内表現がより疎で効率的なものに変化してくことを示している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自由視課題中のサルの第一次視覚野(V1) と下側頭葉皮質(IT)の神経活動の解析を昨年度にひきつづき進展させることができた。 国内外での学会発表を行うことができた。 論文の執筆を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
脳の領域間での情報の流れを同定する目的で、領域内、領域間のニューロンペアでTransfer entropyを計算することを検討している。通常、異なるニューロン間での発火の関連を調べるのにはスパイク相関が用いられることが多いが、スパイク相関では情報の流れの方向を定量的に示すことができない。情報理論をもとにしたTransfer entropy では、情報の方向を明確に示すことができ、特に階層的な視覚野の情報の流れをtop-down, bottom up で分離するという目的には非常に有用であると考えられる。まず、現在妥当な設定パラメータや検定方法について検討している。今後、実際のデータについて適用し、注視の順番や注視開始後の時間に依存して情報の流れに変化があるかどうかを検討する また、発火頻度ではなく複数のニューロンの発火パターンについての定量的な解析について、ドイツユーリッヒ研究所の共同研究者と話し合い、彼らの開発した解析方法を用いて順次進めていく予定である。
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