地球温暖化や干ばつによる農地の悪化は深刻度を増しており、飢餓に直面している人たちが多く住む地域では自然に頼った農業を行っているため、環境条件が食糧の生産に大きな影響を与える。環境ストレスにおける光合成色素の役割を明らかにし、厳しい環境条件下においても生育できる植物の光合成色素量を制御することで、単位面積あたりの収量や栄養価を高めることを目指した。 本研究では、複数のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現を誘導する転写因子(CDR1)の発現がABAによって誘導されることから、ストレス耐性におけるCDR1の役割について検証を行った。本転写因子の変異体は、灌水停止処理後に再灌水を行った際の生存率が野生株よりも有意に高く、乾燥ストレス耐性の向上が示された。発現解析の結果、変異体では野生株よりも早く乾燥ストレス応答性遺伝子の発現上昇が認められた。また、低濃度のABA培地においても変異体では発芽抑制が認められた。以上の結果から、cdr1変異体では、ABAに敏感に応答して乾燥ストレス応答性遺伝子の発現をより早く効果的に稼働させることで、乾燥ストレス耐性が向上したと考えられた。 また、クロロフィル合成の鍵酵素遺伝子を含む複数の生合成酵素遺伝子の発現を制御する転写因子としてCBR1を同定した。このグループの発現は、乾燥やABA処理によって誘導され、複数のクロロフィル生合成酵素遺伝子の発現を負に制御することを明らかにした。乾燥ストレス時に、CDR1はクロロフィル分解を正に制御し、CBR1はクロロフィル合成を負に制御していることを本研究で明らかにした。乾燥ストレス時にクロロフィル蓄積が低下する現象の生理学的な意義はまだ未解明のままであるが、その分子機構について重要な知見を得ることに成功した。 本年度は、光合成色素であるクロロフィルとカロテノイドに関する論文1報と学会発表3件を共著者として発表した。
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