研究実績の概要 |
植物は高い再生能力を有しており、傷口に幹細胞を新たに確立して植物体全体を再構築することができる。本研究では、完全に分化した体細胞である葉の表皮細胞が由来となってシュート再生を行うイワタバコ科植物の現象を解明する。また、様々な実験が容易に行えるシロイヌナズナでの知見との比較を通して、種間の共通点と相違点を理解することを目指す。本年度は、シロイヌナズナを用いたトランスクリプトーム解析およびホルモン分析によって、傷シグナルを受け取った植物体組織がカルス形成を始めるまでに起こる生理学的な変化を明らかにした(Ikeuchi et al.2017 Plant Phys)。本研究によって、植物ホルモンであるサイトカイニンの合成およびERF115やPLT3/5/7遺伝子発現などが、傷に応答して誘導されカルス形成に関与することが分かった。また、酵母1ハイブリッド法を用いて転写因子とプロモーターの相互作用を網羅的に調べ、細胞リプログラミングに関わる因子群の相互作用を1162検出することができた(Ikeuchi and Shibata et al., 2018 PCP)。 イワタバコ科のPrimulina vertigo においては、葉を傷つけて0, 1, 6 日後にRNA-seq 解析を行い、de novo assembly によって転写産物の断片を取得することができた。6 日後では、分裂細胞で発現しているサイクリン遺伝子や、シュート頂分裂組織で発現することが知られているSTM のホモログやなどが発現しており、細胞が活発に分裂してシュート再生が始まっていることが分かった。ERF115およびその相互作用因子であるPAT1のホモログ遺伝子が葉切断後1日後の時点で既に発現上昇していることが分かり、細胞脱分化に先立って発現していることから、細胞脱分化を司る可能性があると考えられる。
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