研究課題/領域番号 |
17J40150
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
有村 奈利子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・病態生化学研究部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 中脳 / Dscam / RapGEF2 |
研究実績の概要 |
これまでの解析で、Dscamが神経細胞移動を制御すること、中脳神経細胞は、興奮性、抑制性神経細胞が同時期に同領域から生まれ移動することや、両細胞種は Dscam/RapGEF2/Rap1という共通の分子カスケードを細胞移動開始に必要とすることを明らかにしてきた。本研究課題では、中脳神経細胞移動とDscamによる形態制御という観点から中脳神経細胞の神経細胞分化がどのようになされるかについて解析をおこなった。これまでの研究において、中脳神経細胞が生み出される胎生期の半ばE13.5において、子宮内エレクトロポレーション法を用いて中脳背側神経細胞に蛍光蛋白質を導入し、48時間後に中脳スライス培養系の time-lapse imagingを行って個々の細胞の神経細胞移動を解析する手法を確立した。さらに、中脳神経細胞の分裂位置から脱上皮化する分化直後の神経細胞を可視化に成功し、形態観察を行なった。この研究の中で、脳室面離脱時に形成される神経細胞の形態変化および退縮が、Dscamにより制御されることを新規に明らかにした。また、これらの形態変化にRapGEF2/Rap1やN-cadherinが関与していることが明らかとなった。これらの結果については、現在論文投稿準備中であり、次年度に公刊する予定である。また、Dscamは細胞外でダイマーを形成する。そこで、ダイマー形成を阻害する変異体では、細胞内の複合体形成は変化するかについて検証を進めた。いくつかの変異体を用いて、相互作用分子に対する影響を検証したが、これらの変異体ではドミナントネガティブ効果は得られなかった。今後はこれらの変異体のダイマー形成の有無や生理活性について検証していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で目標にしているDscamによる中脳神経細胞移動の制御機構について一定の成果をあげることができているため、本研究課題は概ね順調に進展していると考えた。具体的には、中脳神経細胞特異的ラベルのためにNeuroD promotorと一般的プロモーターを使用することで、他の分裂細胞と分けて神経細胞のみの可視化を可能とし観察したことや、Dscam の機能阻害時の形態変化を抽出できたことが挙げられる。また、神経細胞の脳室面からの離脱における分子メカニズムは世界的に未解明の分野であり、これをDscamとその相互作用分子を用いて解明しつつある点も順調であると考える点である。本研究の最終年度に、論文の公刊を行う予定まで完遂できる見通しであることも、順調な進展があると考えた理由である。
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今後の研究の推進方策 |
1)今年度はこれまでの研究成果を取りまとめて公刊する。また、Dscamは細胞外でダイマーを形成するが、予備的実験ではDscamのダイマー形成が多い時の方が、結合分子が乖離しやすいことも見出している。そこで、このダイマー形成を阻害する変異体では、細胞内の複合体形成は変化するかについて検証を進めた。我々は、ショウジョウバエで報告されているドミナントネガティブ体や自閉症との関連が示唆されている一塩基変異体を作成した。両方の変異体を用いて、相互作用分子に対する影響を検証したが、これらの変異体ではドミナントネガティブ効果は得られなかった。我々は自閉症、統合失調症患者のDscamにおけるSNPsについて網羅的に解析し、アミノ酸置換を引き起こすSNPsを探索した。その結果、幾つかのアミノ酸置換によりDSCAMのダイマー形成や複合体形成に影響を及ぼしうる変異体を見出している。今後は、これらの変異型が分子複合体形成にどのように影響を及ぼすかや、マウス胎児に導入した際に引き起こされる神経細胞移動異常について検証していく予定である。
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