歯周病は歯周病原細菌感染によって引き起こされる炎症性の疾患であり、バイオフィルム感染症と位置付けられる。バイオフィルムは、一般に薬剤の浸透に抵抗性を持つ。一方で、抗菌薬の使用制限が国策として決まり、既存の抗菌薬によるバイオフィルム形成阻止が実用化困難となりつつある中で、新たな治療薬の開発が急務である。以上の背景から、食品由来の安全性と抗菌活性を有する上記のコメ由来ペプチドの応用が可能ではないかと考えた。 コメを原材料としたペプチド素材の歯周病に対する効果について検討を行い、本年度は特にその抗菌作用に着目した。これまでの結果において、代表的な歯周病原細菌であるP. gingivalis に対する抗菌活性が確認できたAmy1-1-18ペプチドと、さらにそのアミノ酸置換体を用いて歯周病原細菌バイオフィルムに対する効果の検証を行った。本研究においては、P. gingivalisおよびF. nucleatumを対象としてバイオフィルムモデルを構築し、ペプチドの抗菌活性について評価を行った。 結果として、Amy1-1-18ペプチドおよびそのアミノ酸置換体のいくつかは、P. gingivalisおよびF. nucleatumのバイオフィルム形成を阻害することが示された。中でも、Amy1-1-18ペプチドの12番目の塩基配列を置換したペプチドにおいては、F. nucleatumに対して極めて強い抗菌活性を示すことが明らかとなった。さらに、そのメカニズムとして強い膜障害性を有することが示された。以上より、アミノ酸置換によるカチオン性の強化により膜を標的とした抗菌作用が強化されたことが示唆された。また、抗菌活性の選択性がアミノ酸置換で調整できる可能性が示唆された。すなわち、より狭スペクトルで耐性菌が生じにくい新たなバイオフィルム制御医薬としての発展の可能性が示唆された。
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