研究課題/領域番号 |
17J40184
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹中 菜々 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | デュシェンヌ型筋ジストロフィー症 / 細胞移植治療 / リハビリテーション / 等尺性筋収縮トレーニング / 骨格筋幹細胞 |
研究実績の概要 |
デュシェンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)は筋線維の壊死と再生を繰り返しながら徐々に筋萎縮と筋力低下が進行していく遺伝性の疾患であり、有効な治療法は確立されていない。そこで、新たな根治療法確立に向け、細胞移植治療が多く研究され、治療効果が報告されてきた。しかしながら、DMDモデルマウスの筋力を正確に測定する方法がこれまでに確立されてこなかったため、細胞移植による治療効果を組織学解析のみならず、運動機能の面からも正確に評価された報告はほとんどなかった。そこでまず、DMDモデル(DMD-null)マウスの運動機能を評価する方法の確立を目指して実験を進め、経時的に正確な測定が可能な方法を新たに確立した。さらにその結果、我々の研究室で使用しているDMDモデルマウスでは20週齢を超えると、筋力低下が起こることを高い再現性をもって示すことに成功した。 また、筋ジストロフィー症患者やモデル動物を対象とした先行研究では、DMDの病態を改善するためには、骨格筋全体の10-30%に相当する筋線維でDystrophin発現を回復させる必要があることがわかっている。しかしながら、これまでの移植実験でそのような高効率での生着率を達成することは難しく、相当の細胞数を必要としていた。そこで、ヒトに対する移植治療を想定した場合には、より高効率で治療効果を発揮する細胞移植方法を新たに考案する必要があると考えた。その結果、「移植前の運動と移植」のセットを複数回繰り返すという新手法により、Dystrophin陽性線維数を格段に増やすことに成功した。実際に、この新しい移植方法による移植治療を実施した個体では、10-30%という高いジストロフィン陽性率が達成された。さらに、上記の新しい移植方法による治療で、ジストロフィン陽性線維の割合が20%を超えた移植筋では、20週齢を超えても、筋力低下が抑止されことも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、移植前の運動負荷が移植細胞の生着効率を改善させたメカニズムの解明を目指した実験をはじめた。まずは、Evans Blue色素を用いた実験により、移植前のトレーニングがDMD筋の損傷再生サイクルを活性化していることを確認した。そのため、運動負荷により、移植細胞の取り込みが向上し、結果として、生着効率の改善につながった可能性が高いと考えている。また一方で、移植細胞の取り込みが向上されているだけでなく、それと同時に、DMD筋組織中に取り込まれた移植細胞の生存率・増殖率が高められている可能性も高いと考えた。これまでの野生型マウスを用いた先行研究により、損傷骨格筋組織の再生過程において、マクロファージが重要な働きを担っていることはすでに多くの報告があるため、運動による移植治療効果促進も、マクロファージによる作用が影響しているのではないかと考えた。そこでまずは、マクロファージの骨格筋組織への集積状態やM1/M2存在比に着目して、組織学的解析とFACS解析による検証実験を進めた。その結果、トレーニングを負荷したDMD筋において、未処置のDMD筋と比較してマクロファージがより多く集積していること、さらに、集積しているマクロファージの集団の中には、炎症性のM1マクロファージのみならず、再生を誘導する働きを持つとされているM2マクロファージも豊富に含まれていることもわかった。 平成30年度は、11月の第二子出産に伴って、約半年間は研究を中断することとなったが、上記のとおりおおむね予定通りに研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、移植前の運動負荷による生着効率改善メカニズムの解明を目指した実験を継続して実施することで、前年度に得られたデータの再現性を確認する。また、同時に、さらに詳細なメカニズムの解明を目指した新たな実験も開始する。具体的には、骨格筋組織中のマクロファージを除去する処置を施したDMDモデルマウスに対して運動負荷を加え、その後で細胞移植を実施した際に、細胞生着率の向上が見られるか否かを確認することで、マクロファージが生着率の改善に寄与していることを逆説的に証明する。 また、平成30年度までに新たに確立した移植方法(移植前の運動負荷、複数回移植)に、さらに、移植後の運動負荷も加えることで、治療効果のさらなる向上目指している。平成29年度の実験で、細胞移植によりジストロフィン発現が回復した筋線維では、筋の脆弱性という病態が改善されることが明らかとなっている。そのため、移植治療後のDMDマウスに対して運動負荷を加えた場合は、未処置のDMD筋のように損傷を受けることはなく、むしろ、野生型マウスの筋に運動負荷を加えた場合と同様に、骨格筋肥大・筋力増強といったポジティブな反応が見られるものと考えられる。そこで現在は、細胞移植治療後のDMDマウスに対するトレーニングプログラムの条件検討実験を進めている。
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