研究課題/領域番号 |
17J40189
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
荒川 徹 上智大学, 国際教養学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 現代美術 / ミニマリズム |
研究実績の概要 |
当研究は、アメリカのミニマリズムの美術を対象としつつ、建築との関係性に着目する、美術と建築の横断的な研究である。平成29年度の研究においては、ミニマリズムの用語で称される代表的な作家ドナルド・ジャッドのテクストと作品を中心とした研究を行った。 最初に着手したのは、新たに編纂されたジャッドの著作集Donald Judd: Writingsによる新公開文献の調査である。とりわけ、大学院のレポートとして執筆されたものを含む初期の絵画論においては、本人の初期絵画にも再帰的に分析可能な重要な観点と方法論を得ることができた。これは2018年4月からマイアミで開催される初期絵画展の調査前の、十全の準備となった。 当研究の成果は、平成30年度に刊行予定の著作『ドナルド・ジャッドとミニマリズム』に収録されることになったため、研究成果は迅速に公開されることになる。当著作は、ミニマリズムの美術と、当時の人工風景・建築からの影響を明らかにしながら、美術史的アプローチに留まらない、建築的・音楽的分析を行うものである。中心となる論点は以下の3つである。(1)ドナルド・ジャッド、トニー・スミスらミニマリズムの作家たちが、抽象芸術と人工風景をどのように関連付けていたか、(2)機能主義的な構造設計と、ミニマリズムの美学との関係性、(3)ミニマリズム作品そのものの幾何学・遠近法の分析。 近年ますます拡張して用いられつつある、マイケル・フリードの偏見に基づくミニマリズム批判に対し、本研究は、ミニマリズムに潜在した拡張的側面を明らかにすることを目的にしている。上記の考察は、現代美術研究・美術理論への確かな貢献となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究は、海外出張に関しては予定変更の必要性があった。ニューヨーク近代美術館で開催される予定であったドナルド・ジャッド回顧展に合わせて海外調査を行う予定であったものの、2020年春に延期されたため、海外調査そのものを次年度に延期を余儀なくされた。 しかし、幸いにも、2018年4月からマイアミICAでジャッドの初期絵画展が開催されるため、その機会に合わせて調査を進行することとなった。調査の延期以外に関しては、予定通り順調に進行しているうえ、著作の刊行予定も決定した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、著作『ドナルド・ジャッドとミニマリズム』の刊行に向けて、既に行った研究内容のさらなる精緻化と、現地の調査研究が急を要する。 今後の研究において、既存の研究方法から刷新できるものは、平面の写真資料では失われてしまう要素の導入である。それには、立体物の左右の視覚像の差や、焦点距離の差といったものがある。現物を見る際に得られる経験を、単に主観的経験として記述するのではなく、遠近法上の客観的データと突き合わせることが必要となるだろう。そのため、作品の撮影方法そのものを刷新する(3D写真化、単焦点化)ことを予定している。 また、研究連携に関しては、ドナルド・ジャッドおよびミニマリズムについて、2019年度以降、研究者・作家を含んだグループによる、シンポジウムや研究会を計画中である。
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