研究課題/領域番号 |
17J40191
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤(西内) 涼子 大阪大学, たんぱく質研究所, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞外マトリックス / polydom / アンジオポエチン / リンパ管発生 |
研究実績の概要 |
Polydomはリンパ管発生に重要な細胞外マトリックス蛋白質であり、ノックアウト(KO)マウスは、胎児期に重篤なリンパ浮腫を起こし、出生直後に呼吸不全で死亡する。我々はKOマウスの解析中にpolydomがリンパ管内皮細胞成長因子のアンジオポエチン-2 (Ang2)と結合することを見出した。Ang2のKOマウスもリンパ管の発生異常が報告されていることから、polydomとAng2との相互作用がリンパ管発生に寄与しているのではないかと我々は考えた。そこで本研究では、polydomとAng2との相互作用機構を解明し、それらの相互作用がリンパ管内皮細胞に与える影響を解析することで、polydomがリンパ管の発生に寄与するメカニズムの解明を試みた。 平成29年度までの研究でpolydomのN末端から数えて21番目のCCPドメイン(CCP21)にAng2が結合すること、CCP21のN末端領域にAng2との結合に重要な配列が含まれていることを明らかにしていた。そこで平成30年度では、CCP21ドメインのN末端領域を1アミノ酸ずつ置換した変異体を作製してAng2との結合に重要なアミノ酸残基の特定を試みた。その結果、CCP21に存在する2617番目のヒスチジンと2619番目のアスパラギン酸がAng2との結合に重要であることを見出した。また、固相結合アッセイを用いた解析で、Ang2受容体であるTie2とpolydomは直接結合することはできないが、Ang2を介することで間接的に相互作用することが可能であることが明らかとなった。 それとは別に、polydomが培養リンパ管内皮細胞(HDLEC)の運動能へ与える影響の解析も行った。その結果、コラーゲンやフィブロネクチンなど、他の細胞外マトリックス蛋白質の存在下ではHDLECはほとんど移動しなかったのに対し、polydom存在下ではHDLECの移動細胞数が著しく増加していた。これから、polydomがリンパ管内皮細胞の移動を促進する活性を持つことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度ではAng2との結合に必要なpolydom上のアミノ酸残基を特定することができた。また、polydomが培養リンパ管内皮細胞の移動を促進する活性を持つことを明らかにした。リンパ管内皮細胞を用いた解析は着手したばかりではあるが、polydomとAng2との相互作用の分子機構の大部分は今年度で解明できたことから、おおむね期待通り研究が進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はpolydomとAng2との相互作用がリンパ管内皮細胞(HDLEC)の挙動へ与える影響を明らかにするため、以下の解析を行う。まず、Ang2と結合できないpolydom組換え蛋白質を作製し、HDLECの遊走アッセイに時に添加して遊走促進効果に影響があるかどうかを評価する。次に、polydomによるHDLEC遊走促進活性がどのようなシグナルを介して起きているのかを明らかにする。具体的には、(1)Ang2受容体であるTieレセプターのリン酸化状態や、その下流に来ることが報告されているシグナル分子の活性化状態をウェスタンブロットで評価する。(2)Tieの下流に来ることが報告されているシグナル分子(例えば、細胞骨格を調節する低分子量G蛋白質など)を阻害する薬剤を添加した時に、HDLECの遊走活性に影響があるのかどうかを解析する。(3)上記で影響のあったシグナル因子をsiRNAでノックダウンした際に、polydomによるHDLEC遊走促進活性に影響が出るのかどうかを調べる。 以上の解析から得られた結果を元にして、polydomとAng2の相互作用機構と、それらの相互作用がリンパ管内皮細胞に与える影響についての論文をまとめる。
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