研究課題/領域番号 |
17J40245
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
高嶋 由布子 東京学芸大学, 国際教育センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 認知言語学 / 手話言語学 / 日本手話 / メタファー / 知覚表現 / 思考表現 / 証拠性 / 慣習性 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまで調査がされていなかった「いう」という多義の文法要素、知覚と思考のメタファーについての調査、手話の言語発達の状況についてのレビューを行った。 日本手話学会の発表では、文末に現れる「いう」の用法に着目し、手話言語では非手指のみでマークされると考えられていたコピュラ的な要素として働いており、これが慣習性と一般性を表す要素であることを明らかにした。その後、「いう」が基本的には報告・伝聞の証拠性を表すこと、意外性(mirativity)へも拡張すること、これらがコピュラの意味に拡張し、それが慣習性・一般性をマークするようになったという文法化の過程について検証を進めており、次年度の日本言語学会での口頭発表が採択された。手話言語の証拠性については、ほとんど報告がないため、手話研究のなかでモダリティと証拠性について研究しているほぼ唯一の拠点であるニューメキシコ大学を訪問し、議論を深めつつ、慎重に論文を執筆し、雑誌への投稿を目指している。 手話にとって、内的な視点をどのように表すかは、一大トピックである。知覚のメタファーについては、第一線の研究者の編著による書籍の一章として印刷中である。日本語の研究結果と比較し、日本手話では、日本語の「見る」や「目」を含む慣用句と似て、目の位置で理性的な活動が表現されること、鼻の位置では日本語と異なり「あやしい」という意味は表現されず、価値評価の語が多く見られることなどを報告した。すでに書籍のレビューが行われ、匿名のレビュワーから好評を得ている。 日本手話の思考と理解のメタファーについて、共同研究を行い、一部の成果は、3月にメタファー研究会で報告した。 また、発達心理学の概説書に、聴覚障害児の言語発達について手話と心の理論の発達に着目した章を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、これまでの研究をまとめ、論文を投稿する予定だったが、とくに理論的な問題が解決できなかったこと、手話言語で先行研究がないが重要な要素が見つかり、慎重に進める必要性が増したことなどにより、論文投稿に至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
手話研究は、精査できる研究者が乏しく、また社会的に低い地位に置かれているマイノリティの言語であることから、倫理的な問題(事実と異なることを論文として発表してしまい、それが規定の事実と認定されてしまう)から慎重にならざるを得ないため、今後もインフォーマント、共同研究者と協議を重ねて研究していく。また、手話研究の深い経験を持つメンターの助言を得てできる限り倫理的に、かつ成果が出せるよう、進めていく。
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