研究課題/領域番号 |
17K00008
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中川 健治 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (80242452)
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研究分担者 |
渡部 康平 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (10734733)
武井 由智 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (90313337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 通信路容量 / Kullback-Leibler情報量 / Arimotoアルゴリズム / 収束速度 |
研究実績の概要 |
離散的無記憶通信路の通信路容量を計算する方法としてよく知られているArimotoアルゴリズムの収束速度について明らかにした。 Arimotoアルゴリズムは通信路容量Cを計算するための逐次アルゴリズムである。ベイズ確率に基づいて,Arimotoアルゴリズムは入力確率と逆チャネル行列との間の交互最小化によって与えられる。任意の通信路行列に対して,Cに収束する入力分布の系列が得られ,収束速度が評価された。Arimotoアルゴリズムの繰返し回数をNとすると,最悪の場合,収束速度は1/Nオーダーであり,最適な入力分布λ*が確率分布集合Δの内部にあるとき,収束速度は指数関数的である。 本論文では,指数関数的収束のための十分条件を与え,収束速度を評価した。λ*がΔの境界上にあっても指数関数的な収束の場合が存在することを示した。収束速度を評価するための基本的な考え方として,Arimotoアルゴリズムを定義する関数FはΔからΔへの微分可能な写像であり,最適な入力分布λ*がFの不動点であり,そして,収束速度は不動点λ*におけるFのテイラー展開の第1項と第2項によって評価される。実際,本研究では,定義関数のテイラー展開を解析することにより指数関数的または1/Nオーダーの収束のための条件を明らかにし,収束速度を計算した。1/Nオーダーの収束速度は,Kullback-Leibler情報量およびその入力確率に関する微分によって評価されることを示した。1/Nオーダーの収束はこの研究で初めて解析された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年4月の研究開始当初から,研究分担者との議論を継続して行い,解決すべき様々な問題点を検討してきた。その結果の1つとして,Arimotoアルゴリズムの収束速度を評価するための方法として,その定義関数Fによる力学系を考察し,Arimotoアルゴリズムで得られる系列λNをその力学系による系列と考えて考察することが重要であることがわかった。それが2017年8月頃である。それから多くの文献を調査し,収束速度の評価法を検討した。まず,λ*がΔの内点にあるときには収束速度の評価は比較的易しく,Fのヤコビ行列の固有値によって収束速度が評価されることがわかった。それに対して,λ*がΔの境界上にあるときは問題かかなり難しく,具体例を多く検討して考察した。これは2017年9月頃である。ここまでの結果をまとめて,SITA2017(情報理論とその応用シンポジウム2017)に投稿し,2017年11月にポスターセッションで発表した。 それからさらに検討を進め,2017年10月頃からFのヘッセ行列を解析することが重要であることに気が付いた。そこで,Fのヘッセ行列を計算し,1/Nオーダーの収束速度についての評価を検討し,1/Nオーダーの遅い収束について検討すべき漸化式を発見した。その漸化式の収束速度の評価は困難で,研究分担者と検討し,また,周囲の多くの研究者に質問して解決を目指した。その結果,まず簡単な場合に収束速度を計算し,さらに検討を進めて十分に一般的な場合の収束速度を計算することができた。 その結果を電気通信大学で開催されたセミナーにおいて約3時間の発表を行った。さらに国際会議ISITA2108に投稿した。今後,得られた結果をIEEE Transactions on Information Theoryに投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 離散的無記憶通信路の通信路容量を達成する入出力分布を計算するアルゴリズムの開発 本研究では,各通信路行ベクトルからKullback-Leibler情報量が等しい分布のアファイン部分空間への射影を繰り返し適用して通信路容量Cを達成する最適点を求めるアルゴリズムを開発する。開発のために利用する量は,Kullback-Leibler情報量,重心座標,内積,ピタゴラスの定理,アファイン部分空間への射影のみである。 我々は既に,任意の通信路行列に対して適用できるCを計算するための射影によるアルゴリズム(射影アルゴリズム)を得ているが,それはまだヒューリスティックな部分を含むので,必ずしも正しいCの値が得られない場合がある。今後,失敗する例をさらに分析して100%の正答率を得ることを目的とする。 (2) 連続値加法的雑音通信路の通信路容量を達成する入出力分布を計算するアルゴリズムの開発 通信路の入力Xおよび出力Yが連続値をとるときの通信路容量について考察する。わずかな例外を除いて,通信路容量Cを達成する入力分布は離散分布であることが知られている。 本研究では,なぜ離散分布がCを達成するのか,その理由を明らかにする。特にXが実数上の有限区間で雑音Zが有限区間上の加法的雑音の場合について検討する。入力X上の確率分布の特性関数,すなわちフーリエ変換に基づいて,最適な入力分布の離散性について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたPCの購入を翌年度に変更した。本年度は,そのPCの購入,および国際会議,国内会議への参加のための参加費と旅費に使用する。さらに研究分担者との研究打合せのための旅費に使用する。
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