本研究課題では、スピングラスと呼ばれる磁性体の平衡状態が、データ圧縮の過程を定義する代数方程式系が満足する「解」として記述できる数学的事実に注目した。そして、シャノンに始まる古典的な立場の情報理論に基づいた新しい分析枠組を提唱することで、やはり古典的な力学系を基礎とする統計物理学のアプローチと統合し、スピングラスに代表される磁性体の非自明な性質を厳密解析の方法で解明するための基礎を与えることに成功した。今回、新しく開発した処方箋で厳密に解析できるスピングラスの模型は限定的であるが、一部の計算を数値的な評価などで置き換えることなども現実的であり、非常に魅力的な物性解析の方向性を示唆できたと自負している。実際、本研究が提案している代数的な立場による分析結果は、これまでの解析的な立場による分析結果を無矛盾に説明しており、スピングラス研究の最前線で活躍する国内外の物理学者とも内容の正当性を巡って検証作業を実施することができた。その結果、開発した処方箋の一部に修正が加わるなどの進展も見られ、現在、最終的な確認作業を共同研究者と共に実施している。このような結果を踏まえ、今後は、本研究で開発した磁性体の代数的解析技術を物理学分野の学術誌に発表する段階になる。同時に、本研究で開発した処方箋を、情報理論分野の研究に適用するための検討にも入る予定で、来年度以降に科学研究費補助金の課題研究として提案したい。
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