本研究は,理論計算機科学における計算複雑さおよびアルゴリズム理論の分野で急速な進展を遂げているパラメータ化計算という枠組みのもとで,離散最適化に対する率的なアルゴリズムの設計技法として確立しつつある固定パラメータアルゴリズム理論を扱っている.その理論がもつ,何らかの特徴をもつ実データに対してアルゴリズムを高速に動作させるという理念に鑑み,理論的な成果を挙げると同時に固定パラメータアルゴリズム研究を実用化の段階へ推し進めることを目的とする.本研究は,当初設定した研究期間を経過したが,コロナ感染症による進捗の遅れから研究機関を再々延長した.研究期間の延長にともない,研究目標は当初設定した理論研究から,それをベースにしたより実用的な研究に比重を置いた.7年度目である令和5年度は,理論的な研究を継続するとともに,生物学の研究者との協業により,バイオインフォマティクス分野で求められる計算問題に対して,実用的かつ効率的なアルゴリズムを開発することを目指した.他にも,現実のネットワークに対して重要な意味を持つ問題をいくつか扱い,固定パラメータアルゴリズムを開発した.具体的には,理論面からは,グラフに対するUpper Clique Transversalという問題を扱い,さまざまなグラフクラスに対する困難性や多項式時間アルゴリズムを示し,パラメータ化計算や近似アルゴリムの側面からの考察を深めた.現実のネットワークで重要となる問題として標的集合選択問題と影響力拡散防止問題,ならびに識別コード問題を扱い,近傍多様性によるパラメータ化アルゴリズムなどを考察した.さらには,生物学分野でよく現れる細菌間相互作用ネットワークの変化量に着目し,その変化の原因となる細菌を特定するための手法を開発したうえで,だれもが利用できる形のアプリケーションとして提供することに成功した.
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