研究課題/領域番号 |
17K00018
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
斎藤 明 日本大学, 文理学部, 教授 (90186924)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ハミルトンサイクル / 最小次数 / 弦 |
研究実績の概要 |
本年度はハミルトンサイクル存在の次数条件の緩和に関する研究を行った。n を 3 以上の整数として位数 n のグラフ G を考える。Dirac の定理によれば、G の最小次数が n/2 以上あれば G はハミルトンサイクルを持つ。またこの条件は最良であり、n が奇数のとき、最小次数が (n-1)/2 あり、かつハミルトンサイクルを持たないグラフ G が無数に存在する。しかし最小次数を n/2 未満の値から上げていったとき、n/2 に達するまでにハミルトンサイクルの存在に関する何らかの兆候が現れるはずである。本年度はこの点を探った。 サイクル上にありサイクル上では隣接しない2頂点を結ぶ辺を、そのサイクルの弦とよぶ。弦を持つサイクルを弦付きサイクル、位数 k のサイクルを k-サイクルとよぶ。ハミルトンサイクルの存在を証明する際に弦は頻繁に使用される。そこで最小次数条件を弦付きサイクルの長さの分布から調べた。 調べてみると、弦を持つサイクルの分布は最小次数よりも辺密度、すなわち位数に対する辺の本数に敏感に反応することが分かった。より具体的には、もし位数 n のグラフ G が n^2/4 本以上の辺を持つとき、G に k-サイクルが存在すれば、G には弦付き k-サイクルが存在することを証明した。最小次数 n/2 以上のグラフの辺密度の下限は n^2/4 なので、この結果は Dirac の定理とも良く整合している。 辺密度が n^2/4 未満になると、弦付き 4-サイクルの存在が保証されない。しかし n^2/4-n+16 以上あれば、k>=8 において依然として弦付き k-サイクルの存在が保証されることも分かった。予想通り弦付きサイクルの長さの分布が、ハミルトンサイクル存在に向けた量的な兆候である強い証拠を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目標は、ハミルトンサイクルの存在を保証する最小次数条件を緩和することにより、その存在性の兆候を定量的に調べることであった。この兆候は弦付きサイクルの長さの分布で捉えられると予想し、研究を進めたところ、位数 n のグラフに対して n^2/4 本以上の辺が存在すれば、位数 k のサイクルの存在と位数 k の弦付きサイクルの存在が同値になることが分かった。このことは本研究代表者の予想を支持する有力な証拠となる。また弦付きサイクルの長さの分布は頂点数に対する辺の本数(辺密度)に依存することも分かった。辺密度は最小次数よりも細かい操作を可能とするので、最小次数を用いた分析よりも詳細な情報を得られる可能性がある。本研究代表者は研究開始前にこの事実を予想おらず、意外性のある有力な知見を得た。この点では本研究は当初の予定よりも進んでいる。 一方研究が予想外の広がりを見せたため、当初1年計画として進めていたテーマが1年では収まりきれなくなっている。辺数が n^2/4-n+16 以上のグラフに関して k>=8 では上記の同値性が依然として保存され、4 <= k <= 5 では保存されないことは分かっているが、k=6, 7 に対して保存されるか否かが不明であり、この点をさらに調べる必要がある。また辺数を n^2/4-n+16 から上下に変動させたときに同値性が保存される k の値の振る舞いを調べる作業も残っている。これらの研究が新たに2年目の計画に加わった。これは当初の2年目の計画を圧迫するかもしれない。研究が予想外の広がりを見せたことによる作業量の増加ではあるが、2年目の計画を遅延させる可能性を持つ。ただ新たな作業は明確に定まっているので、遅延の可能性はそれほど大きいとは考えられない。 以上の2点から本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はまず、平成29年度に明らかになった辺密度と弦付きサイクルの長さの関係を、より詳細に調べることから始める。本年度の研究で位数 n のグラフ G が n^2/4-n+16本以上の辺を持つとき、k>=8 に対して G における位数 k のサイクルの存在と位数 k の弦付きサイクルが存在が同値であることが分かった。またこの帰結は k<=5 では成り立たないことも分かっている。しかし k=6,7 のときが不明である。まずはこの点を解明する。 また G の辺の本数をさらに緩和したときに、上記の同値性が保証される k の値がどのように変化するかを調べる。辺密度が十分小さくなると、いかなる k の値についても同値性が保証されないことは簡単に分かる。すなわち同値性が破綻する辺密度の境界がある。この境界が存在する範囲を可能な限り絞り込む。 並行して、当初2年目に予定していた binding number による十分条件の緩和も試みる。Woodall により binding number が 3/2 以上あるグラフはハミルトンサイクルを持つことが知られている。偶位数のグラフがハミルトンサイクルを持てば、そのグラフは 1-extendable なので、binding number の緩和によりグラフの extendability がどのように変化するかを調べる。extendability には様々な亜種があり、これらの亜種を用いるとextendability の変化を柔軟に調べることができる。本研究代表者は M.D.Plummer が導入した E(m, n) という性質の変化に帰着させて,binding number の緩和に伴う extendability の変化を測定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究代表者は当初の計画として、平成29年7月に米国コロラド大学の M.S.Jacobson 教授を訪問し、ハミルトンサイクル存在の十分条件についてレビューを受け、研究情報を交換する予定であった。Jacobson教授には本課題申請時に訪問の可能性を伝えていたが、採択されるまでは訪問を確約できなかった。本課題研究が採択される直前に、Jacobson教授に国際会議および共同研究の招聘があり、Jacobson教授はそちらの招聘を受けたために、7月の訪問は不可能となった。Jacobson教授とはその後も別の時期での訪問、あるいは招聘の可能性を検討したが、残念ながら折り合いがつかず、本年度の訪問をあきらめた。 Jacobson教授への訪問の可能性を検討しており、本年度の未使用額を次年度に使用する予定である。
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