研究実績の概要 |
情報理論(通信路符号化)の分野では,従来,誤り指数(error exponent)によって表現される符号化定理が研究されてきた.誤り指数が導出できれば,同一の情報伝送速度のもとで,復号誤り確率と計算量の関係を明確にすることが可能となる.本研究では帰還通信路を用いた判定帰還(ARQ)方式において,LDPC符号など符号クラス,通信路・復号法・判定帰還方式の判定基準を与え,誤り指数の導出および有限の符号長における誤り確率上界の導出を試みる.そして,精密に誤り確率を評価した結果を踏まえ,帰還通信路を用いることによって可能な復号計算量削減の効果が,従来研究よりも大きくなることを明らかにする.計算量の削減効果は携帯端末の消費電力の低減を評価する意味で重要である. 2017年度は,Forneyの提案した最適な判定基準を用いた場合の誤り確率の上界式を精密化した.これに対し2018年度は,これを簡略化した準最適な判定基準を用いた場合の誤り確率の上界式に対する精密な評価を与えた.ここで,用いる簡略的な判定基準として[Hashimoto99]の判定基準を利用した.そして,準最適な判定基準を用いた場合についても,[Forney69]の基準と同等の性能が達成できることを,線形符号やLDPC符号の実用的な符号を用いて示すことができた.この結果を国際会議にて発表,ならびに電子情報通信学会英文論文誌Aに投稿した. [Hashimoto99] T. Hashimoto, ``Composite scheme LR + Th for decoding with erasures and its effective equivalence to Forney's rule,'' IEEE Trans. Inform. Theory, vol.45, no.1, pp.78--93, Jan. 1999.
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今後の研究の推進方策 |
2017年度および2018年度の研究成果は,復号器に最尤復号法を仮定して得られた成果である.しかしながら,より計算量の少ない繰り返し復号法や,2元消失通信路におけるリスト復号法などを用いる方式も考慮に入れて研究を進めていきたい.このような場合においても,精密な上界式の評価は重要であると思われる.繰り返し復号法における誤り指数については文献[BM04]において評価が行われているけれども,このような解析を帰還通信路を利用するモデルへと拡張を行いたい.また,最近,LDPC符号の復号法の中で,リスト復号法のプロセスを挿入し,このアシストによって信頼度を向上させる方式が文献[BKSY19]で発表されている.本研究では,このようなリスト復号法を用いたアプローチについても検討を行っていきたい. [BM04] D. Burshtein, G. Miller, ”Asymptotic enumeration methods for analyzing LDPC codes,” IEEE Trans. Inform. Theory, vol.IT-50, No.6, pp.1115-1131, June 2004. {BKSY19] E. Bocharova, B. D. Kudryashov, V. Skachek and Y. Yakimenka,”BP-LED decoding algorithm for LDPC codes over AWGN channels,” IEEE Trans. Inform. Theory, vol.IT-65, No.3, pp.1677-1693, Mar. 2019.
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