研究実績の概要 |
情報理論(通信路符号化)の分野では,誤り指数によって表現される符号化定理が研究されてきた.誤り指数が導出できれば,同一の情報伝送速度のもとで,復号誤り確率と計算量の関係を明確にすることが可能となる.本研究では帰還通信路を用いた判定帰還(ARQ)方式において,LDPC符号など符号クラスと判定帰還方式の判定基準を与え,誤り指数の導出および有限の符号長における誤り確率上界の導出を試みた.そして,精密に誤り確率を評価した結果を踏まえ,帰還通信路を用いることによって可能な復号計算量削減の効果が,従来研究よりも大きくなることを明らかにした.計算量の削減効果は携帯端末の消費電力の低減を評価する意味で重要である.準最適な判定基準を用いた場合,誤り確率の上界式に対する精密な評価については2018年度に着手したが,2019年度にこの評価を完結させることができた.ここで用いた簡略的判定基準は,漸近的な性質が知られている[Hashimoto99]の判定基準LR+Thとした.本研究により,準最適な判定基準を用いた場合についても,Forneyの基準と同等の性能が達成できることを,線形符号やLDPC符号の実用的な符号を用いて示すことができた.また,特に今年度は,有限長の符号に対する数値例を算出し,実用的な領域においてもその有効性が確認できた.さらに今年度は査読の過程を経て,本研究が電子情報通信学会英文論文誌Aに掲載された. [Hashimoto99] T. Hashimoto, ``Composite scheme LR + Th for decoding with erasures and its effective equivalence to Forney's rule,'' IEEE Trans. Inform. Theory, vol.45, no.1, pp.78--93, Jan. 1999.
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