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2017 年度 実施状況報告書

反応オートマタ理論に基づく化学反応計算系の基礎的研究

研究課題

研究課題/領域番号 17K00021
研究機関早稲田大学

研究代表者

横森 貴  早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60139722)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード化学反応系 / 多重集合 / 受理計算モデル / 計算能力 / 決定性と可逆性
研究実績の概要

生命活動は生体化学反応によって維持されているが,そのような情報処理メカニズムを形式化して理解するために,多重集合をベースとした計算モデルとして反応オートマトン(Reaction Automaton:RA)を提案した.情報科学の理論分野において,この多重集合はこれまで脇役的な存在であったが,近年になって離散的状態空間における情報処理モデルの研究が盛んになるにつれて,特に化学系・生物系の計算モデルにおいてその重要性が注目されている.従来,化学反応系の研究は常微分方程式系を用いた手法が一般的であった.他方,反応系に関わる分子数と分子種の数が比較的少数である場合,状態空間を離散的な多重集合とみなす計算モデルが有効である.この離散的アプローチでは少分子系の振る舞いに関する構成的な解析が可能となり,反応系の動作機構がアルゴリズムとして理解できる(すなわち,化学反応がプログラミング可能となる)という利点を有する.
本研究における目的は,分子レベルでの化学反応系の振る舞いを解析するために,多重集合をベースとする構成的な離散的計算モデルを構築し,そこで得られる計算論的な知見をもとに,最終的に化学反応に基づく反応プログラミング技法を確立する事である.本年度の研究実績は以下のとおりである.
・ 細胞内で起こる種々の化学反応系をモデル化した離散系システムを導入し,細胞内の化学反応による状態変化の過程を多重集合の変換過程として定式化した計算モデルRAの制限されたモデルCRAの計算能力を解析し,またCRAの受理言語クラスの代数的な特徴付け定理を示した.
・ CRAにおいて決定性と可逆性がどのようにその計算能力に制約を与えるかを研究し,それらが真に制限となる事を示した.
より詳細な説明は【現在までの進捗状況】に譲る.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

(1) 我々が提案した反応オートマトン(RA)は受理計算モデルとしてTuring万能性を有することが解っている.RAの反応規則(R,I,P)のうちでIが空集合である(即ち,inhibitorがない)RAをCRA(Chemical RA)とよぶが,CRAの計算能力は線形有界オートマトンよりも真に劣ることが解っている.このCRAが受理する言語族に対して,以下のような代数的な表現定理が成り立つ事を示した.即ち,任意のCRAが受理する言語Lは,ある準同型写像hと2-局所的言語Rを用いて,L=h(Bn∩R)と表現可能である.ここで,Bnは〝部分Balanced言語”と呼ばれる固定した言語である.これにより,化学反応による計算能力に対する代数的な特徴付けが得られた.
(2) CRAモデルはその性質からDNAなど生体ナノ高分子による実装の可能性が(実験室において)示されており,特に、決定性と可逆性をもつCRAは実際的な局面において重要な性質である.この決定性CRAと可逆的CRAの計算能力の解析を行い結果を得た.
以上の知見は,反応系による計算メカニズムの本質を解明するひとつの成果であり,本研究の最終目的である〝化学反応プログラミングの設計技法”の構築のための基礎的な知見を与えるものと期待される.
(3) 本研究において基盤的な概念である〝反応オートマトン”は,2007年にEhrenfeuctとRozenbergによって提案された反応システム(Reaction System:RS)を拡張した計算モデルであり,2012年に我々が初めて導入したものである.が,一般論としてRSとの比較においてまだ世界的な知名度は得ていないと思われる.そのため,RA理論の普及を目的とした活動にも力を注ぐために,国際会議での発表や国際雑誌におけるサーベイ論文などを通して,RA理論の普及を行った.

今後の研究の推進方策

本研究の最終目的を考慮すると,RA/CRAモデルを拡張したもう一つの形式システムの導入が有効であると考えられる.すなわち,多重集合の状態遷移による入力受理器である現在のRA/CRAを『与えられた入力列に対してそれをある目的にそって処理して出力する“化学反応による記号列変換システム”として再定義する』ことが必要である.この反応変換器(Reaction Transducer:RT) はRA M=(S,Σ,A,D,f)に出力アルファベットΔを付加して,各反応を4項組 (R,I,P;E)として定義することで可能となる.ここで,(R,I,P)はRAの反応規則であり,Eは出力分子を表す.今後の研究の推進方策としては,
① 上述したRAの拡張モデルRTを基本的な形式モデルとするが,確率的要素など必要に応じて変形や拡張を行い各々のモデルを補強していく.そして,それらのもつ情報処理能力を解析する.
② 生体内でおこる基本的な化学反応であるDNA配列のハイブリダイゼーション,mRNAの転写,アミノ酸配列への翻訳などを,RTの形式的枠組みを用いてモデル化を試みる.
③ 生体内の化学反応回路の動的平衡状態などを始めとする高度の生体維持機能のメカニズムを解明するために,細胞内の生体分子群を“構造をもつ要素からなる多重集合”として抽象化したモデルを解析する.
④ 上述のモデルの解析結果をもとに,化学反応に基づくプログラミング技法の基礎的考察を行う.

次年度使用額が生じた理由

予定していた海外出張の取りやめ,などのため次年度使用額が生じた。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] The Computing Power of Determinism and Reversibility in Chemical Reaction Automata2018

    • 著者名/発表者名
      F.Okubo and T.Yokomori
    • 雑誌名

      Reversibility and Universality (Edited by A.Adamatzky)

      巻: 30 ページ: 279-298

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Characterizations of Language Families Based on Local and Star Languages2017

    • 著者名/発表者名
      F.Okubo and T.Yokomori
    • 雑誌名

      Fundamenta Informaticae

      巻: 154 ページ: 323-341

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Natural Computing Paradigm ─ A Concise Introduction2018

    • 著者名/発表者名
      T.Yokomori
    • 学会等名
      International Conf. on Artificial Life and Robotics 2018
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Computing with Multisets : A Survey on Reaction Automata Theory2018

    • 著者名/発表者名
      F.Okubo and T.Yokomori
    • 学会等名
      Computability in Europe 2018
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2018-12-17  

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