研究課題/領域番号 |
17K00023
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
井坂 元彦 関西学院大学, 理工学部, 教授 (50351739)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非可逆データ圧縮 / 符号化 / 非一様情報源 / トレリス符号 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,入力データの忠実な復元を必ずしも要求しない情報源符号化である非可逆データ圧縮を対象として,効率的な符号の構築を目標としている.これは情報理論分野における基本的な問題のひとつであり,入力データを表現するための符号語の長さ,および符号語から得られる復元データと入力データとの差分量を表す歪みが性能の尺度として用いられる.これらの間にはトレードオフの関係が存在し,その理論的な限界は情報理論的な量であるレート・歪み関数により与えられる.一様な確率分布に従う離散的情報源に対しては,最近になりメッセージ伝搬型の符号化法により理論的性能限界に迫る非可逆データ圧縮法が報告されているが,より一般の確率分布に対しては比肩する結果が必ずしも実現されていないことが本研究課題の動機となっている. 本年度は,非一様な確率分布に従う2元情報源に対して,トレリス符号と呼ばれるクラスの符号を適用し,その設計法と性能に関して検討を行った.従来の符号理論では,その扱いやすさから有限体上のベクトル空間として定義される線形符号が,理論・実用の両面における研究の対象となってきた.しかし,非一様情報源に対する線形符号化では理論限界は達成不可能であることが示されており,このため従来の枠組みを超えた新たな方法論が必要とされる.そこで,線形符号である畳込み符号を一般化することで定義され,非線形符号を直接的かつ簡便に構成できること,歪みに関して最適な符号語を効率的に決定するアルゴリズムが存在することなどの利点を有するトレリス符号を取り上げ,その状態数を増大することで理論限界に迫る性能を達成可能であることを明らかにしている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,非一様2元情報源を対象として,性能の高い符号化を行う上で必要とされる設計指針を探るととともに,符号を構成することを計画していた.従来の符号理論が主たる対象としてきた線形符号の使用は,上記の情報源に対しては性能の観点から適さないため,非線形符号を構成する上での方法論を明らかにする必要がある.特に本年度は,トレリスと呼ばれる有向グラフの上で定義される2元非線形符号をコードブックとした符号化を対象として検討を行った.これは,非線形符号を直接的に定義できること,および最適な符号語を効率的に特定できるアルゴリズムが存在する利点がある.具体的な検討課題として,種々の符号化レートに対する,トレリスの形状および状態数,記号の確率分布と配置法,最小ハミング距離,符号の周期的構造などの観点から,符号の設計指針を多角的に検討した.その上で,確率的に生成されたトレリス符号は,その状態数を上げることで理論限界に迫る性能を達成し得ることを確認している. また,より一般的なアルファベット上の情報源に対する符号化に向けて,通信路符号としての多元トレリス符号に関する基礎的な検討も併せて遂行した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,記憶の無い非一様2元情報源に対する符号化とその性能評価を行った.一方,符号化および復号において必要とされる記憶容量の観点からは改善の余地が残されている.このため,その記述がより簡易で構造に飛んだ符号の構成を行うこと,および計算効率のよい符号化法を考案することが今後の課題のひとつとして挙げられる. さらに,より一般的な設定への拡張として,多元離散的アルファベットを対象とした符号化法,情報源の確率的な構造が変動しえる状況における符号化とその性能,記憶のある情報源に対する性能のよい非可逆データ圧縮,連続的な値をとる情報源への拡張などに関して,次年度以降に継続して検討する.これらに対しても,従来の符号理論的な立場では良好な性能を達成することが困難であるため,設計基準の明確化と具体的な符号構成を並行して進める予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,研究動向の調査を目的とした旅費としての支出を予定していたが,本務の都合により国際会議への参加を見送ったことが理由となり,次年度使用額が生じた.次年度については,主に調査旅費および研究成果発表旅費に対して充当する予定である.
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