本年度は,これまで行なってきた大規模ネットワーク解析に対するストリーミング計算アルゴリズムに関連して,データストリーム中の各アイテムの頻度を見積もる問題に対する省領域の乱択ストリーミングアルゴリズムを提案した.提案アルゴリズムは,確率的数え上げをもちいたカウンターにもとづくアルゴリズムであり,空間計算量が少なく,既存のアルゴリズムよりも単純なものになる.この成果は電子情報通信学会研究部会コンピュテーション研究会で口頭発表を行なった.また,昨年度得られた成果である,二部マッチングマーケットの漸近的な性能解析に関して,離散数学とその応用に関する日洪シンポジウムにおいて招待講演を行なった. 本研究課題の目的は,ネットワーク内の有用な構造を検出するための数理モデルの構築と効率的な計算手法の設計であった.特に,組合せ最適化という理論的観点から取り組むことで,解の精度や計算時間が理論的に保証された計算手法を開発し,応用分野にあらわれる大規模なネットワークに適用できる新しい手法を提案することを目指すものであった.その観点から,期間全体を通じて,大規模ネットワーク解析に応用できるさまざまな組合せ最適化モデルの提案とアルゴリズム開発に取り組んだ.特に顕著な成果を挙げたトピックは,制約付き劣モジュラ関数最大化問題に対するストリーミングアルゴリズムの開発とネットワークのコミュニティ検出問題に対する新しいモデルの提案である.これらの問題は,ネットワーク上の知識発見の問題においてその重要性が認識されている,汎用的な組合せ最適化問題である.本研究では,これらの2つの問題に対して理論的な近似保証を持つ効率的なアルゴリズムを開発した.前者の成果は理論計算機科学分野の査読付き国際会議や査読付き論文誌に採択され,また,後者はデータマイニング分野の査読付き国際会議に採択された.
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