研究課題/領域番号 |
17K00033
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡村 寛之 広島大学, 工学研究科, 准教授 (10311812)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | システムモデリング / 位相型近似 / 性能評価 / マルコフモデル / シミュレーション |
研究実績の概要 |
平成29年度は主に位相型近似の精度保証の確立とツールの作成に関する一部の作業を行った.具体的には,位相型近似の精度保証の確立する手段として確率順序による上下限値の評価を行った. 位相型分布はマルコフ連鎖によって定義される.位相型分布を定義するマルコフ連鎖の状態数を位相数,状態遷移の構造を位相構造と呼び,位相数と位相構造により近似精度が変わる.位相構造については,多くの場合,標準形と呼ばれる位相型分布を用いる.標準形は隣の状態への遷移だけが許されると言う非常に単純な位相構造をもっている.そのため,ある標準形が与えられた時,その標準形よりも確率順序の意味で小さい/大きい分布を容易に作成することができる.この性質を利用して,与えられた一般分布よりも確率順序の意味で小さい/大きい位相型分布を同定するアルゴリズムの開発を行った.このアルゴリズムの開発によって,一般分布に対して単調な性質をもつ MRGP で記述されるシステムの性能指標などの上下限値を得ることができるようになった.また,裾の重い分布に対しては厳密な意味で大きい分布を得ることができないため,確率順序を緩和したもので対応した. ここで得られた結果の精度を検証するため,平成30年度に予定していたシミュレーション技術開発を前倒しし,位相近似を確率モデルに適用した際の完全サンプリングに関する研究を一部行った.マルコフ連鎖における完全サンプリングは厳密に定常分布に従うサンプル生成させる手法あり,定常状態とみなせる状態までシミュレートする必要がない.本研究では,MRGPを位相型近似によってマルコフ連鎖に帰着させた上で,マルコフ連鎖に対する完全サンプリング手法の適用を行った.特に,位相型近似により生成されたマルコフ連鎖では構造的な特徴があるため,その構造的な特徴から,効率的な更新関数の決定するアルゴリズムの開発を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
位相型分布の確率順序による上下限を導出するアルゴリズムについて完了している.上下限値の精度検証を行う必要が生じたため平成30年度に行う予定としていた完全サンプリングへの応用を前倒しして行った.そのため,平成29年度に行う予定であった,全変動距離を用いた誤差評価については平成29年度に着手できなかったが,全体の進捗としては問題ない.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,平成29年度に着手できなかった全変動距離による誤差評価を行う.全変動距離とは確率測度に関する一つの距離である.一般的に全変動距離とカルバック・ライブラー情報量の関係は Pinsker の不等式で与えられ,これによりカルバック・ライブラー情報量を用いた位相近似のある種の精度保証が得られる.一方で,位相近似したモデルから算出されるシステムの性能評価指標に対する全変動距離による誤差評価は明らかになっていない.ここでは,モデルクラスをいくつか仮定した上で,性能評価指標に対する誤差評価に関する解析的な結果を導出する予定としている.また,位相型近似を応用したシミュレーション技術の開発を行う.具体的には,位相型近似を応用した重点サンプリングの開発を行う.重点サンプリングは希にしか起こらないイベント(レアイベント)などの評価に重要である.標本を生成する分布(シミュレーション分布)による測度変換でレアイベントの発生確率を高くし,シミュレーション分布に応じた重みによる加重平均で性能評価指標を算出する.位相型近似で MRGP をマルコフ連鎖に帰着させることで,Twisted マルコフ連鎖などのマルコフ連鎖に対する重点サンプリングを利用できる.また,カルバック・ライブラー情報量による位相型近似とクロスエントロピー法による重点サンプリングを統合した新しい重点サンプリングの枠組みの構築も行う.また,平成29年度に前倒しで行った「位相型近似を適用したモデルに対する完全サンプリング」についてもアルゴリズムの精緻化を行う.
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