研究実績の概要 |
本年度は, 非負システムにおける新戦略獲得に向け,最適制御理論に基づく安定化制御問題に特化し,誘因型階層戦略であるインセンティブシュタッケルベルグゲーム理論を応用した平衡点への収束条件導出を行った.具体的には,今後の応用展開を想定し,まずは,実非負システムへ適用のハードルを下げることを目的とした.そこで,安定化制御の分野における実務的な重要課題として,非負システムとして有名であるSIR(感染)モデルでのワクチン接種戦略決定を行った.SIRモデルとは,感染症の短期的な流行過程を決定論的に記述するモデルのことである.特に,SIRの頭文字を表す感受性保持者(S)・感染者(I)・免疫保持者(R)のうち,観測可能な感染者人口の現時刻情報に基づく局所的な状態値のみをワクチン接種戦略に利用することを想定した.さらに,感染制御者は複数存在し,これらが下位層を形成すると設定した.さらに,協力戦略であるパレート準最適戦略を選択すると仮定した.一方,感染時間遅れを伴う非線形むだ時間確率数理モデルを基盤として,凸最適化問題への定式化を行った.ここでは,むだ時間リアプノフの安定性理論によって,ワクチン接種戦略を,インセンティブシュタッケルベルグゲーム理論の誘因性,すなわち感染を収束させるようなインセンティブを経由して設計した.これらの提案されたワクチン接種戦略の顕著な利点は,非負の変数であっても,所望の均衡状態へ観測可能な遅延情報だけ利用して,誘引することができることである.さらに,戦略を計算するための数値計算アルゴリズムの開発も行った.その結果,高精度な解を高速に求めることが可能となった.また,従来研究と比較して,二点境界値問題を解く必要もなく,凸最適化問題を繰り返し解くだけで,インセンティブシュタッケルベルグゲーム戦略によるワクチン接種戦略を得ることが可能であることが確認された.
|