研究課題/領域番号 |
17K00055
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
南 美穂子 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70277268)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生物資源評価 / 環境リスク評価 / クラスタリング / 分布間距離 / 分類樹 / 欠測データの解析 / 偽発見率 / 多変量極値分布 |
研究実績の概要 |
環境リスク解析:1)大気中のPM2.5の健康影響調査に関しては観測データに基づいて時系列相関,空間相関,環境要因,土地利用情報を用いたLand Use 回帰モデルによる解析を行い,これらの変数を用いてもPM2.5濃度に対する回帰モデルの寄与率は低いこと,また,欠測地点でのPM2.5濃度の予測信頼区間は幅が広いことが判明し,欠測に対して予測値を代入して観測値として扱う方法は,例え従来のような単純な距離補完ではないとしても適切ではないことを改めて示すことができた.2)自然現象に対する地域統計モデリングとして複数地点のデータを同時に捉えるためにmax-stable processによる多変量極値モデルを考え,日本の年最大日降水量データに適用した研究を樫山文音氏と共同で行い学術雑誌に掲載され、第1著者である樫山君に2018年度応用統計学会奨励論文賞が授与された. 生物資源評価:1)太平洋赤道近辺のマグロ巻き網漁で観測された混獲データに基づくクロトガリザメの生息数指標への環境影響評価に関する論文をCleridy E. Lennert-Cody博士(Inter-American Tropical Tuna Commission, IATTC)と共同で執筆し,専門学術誌に掲載された.また,IATTC主催の会議で加盟国に対して報告するとともに統計数理研究所で開催されたISMシンポジウムでLennert-Cody氏が招待講演を行った.2)体長分布の空間クラスタリングの研究に関しては分布間の距離に関する理論研究を進め,東部太平洋におけるマグロ漁で計測されたキハダマグロの体長データに応用した,さらに,癌患者群と健常者群の遺伝子発現量分布の違いの分布間距離を用いた探索法の提案に向けて研究を進めている.これらについて統計数理研究所の共同研究集会および渋谷政昭氏記念ワークショップで講演発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Max-stable processによる多変量極値モデルの年最大日降水量データへの応用と,太平洋赤道近辺のマグロ巻き網漁で観測された混獲データに基づくクロトガリザメの生息数指標への環境影響評価に関しては学術誌に論文が掲載され,順調に進展していると言うことができる. 大気中のPM2.5の健康影響調査に関する研究は,環境省の微小粒子状物質等疫学調査研究検討会で進行している疫学研究に関連するものである.この検討会では,茨城県内で行われた住民健康調査に基づいて測定局で計測されたPM2.5観測値の健康への影響を計測している.しかしながら,健康調査のベースライン年でPM2.5を計測している測定局は当該地域にはなく,現在でも少数の測定局でしか計測されていない.本年度の研究は,このような状況で統計学的に適切な解析を行うためのモデルの必要性を検討する上で必要な解析である.現段階では,論文に直結するような研究ではないが,今後,意義ある研究成果を挙げるためには重要であると考える. 分布の空間クラスタリングの研究に関しては,当初の予定の内容に限定せず,遺伝子発現データの解析など幅広い応用を視野に入れたものに拡張することとしたため論文にまとめるにはいたらなかった.
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今後の研究の推進方策 |
環境リスク解析:大気中のPM2.5の健康影響調査に関しては,系列相関,空間相関,環境要因,土地利用情報を用いたPM2.5に対する回帰モデルと住民健康調査に基づく疾病発症までのCox比例ハザードモデルを結合させた階層ベイズモデルを構築し,欠測に対して,予測値を観測値であるかのように扱うのではなく,観測値が与えられた下での条件付き分布を用いて予測値を考えることにより,データから得られる情報を偽りなく,かつ,最大限に抽出する方法を考え,その必要性をより説得力を持って提唱したいと考える. 生物資源評価:分布の空間クラスタリングの研究に関しては提案する修正Kullback-Leibler 距離と比較する分布間距離としてEarth mover’s distanceなどを加えて,東部太平洋におけるマグロ漁で計測されたキハダマグロの体長データの解析とシミュレーションによる比較を行い,論文にまとめる予定である.また,大規模な多重比較,例えば,癌患者群と健常者群で異なる遺伝子発現量分布をもつ遺伝子の探索などに修正Kullback-Leibler分布間距離などを用いる方法の研究を進めたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
大学院生に依頼する想定であった解析作業の一部を研究代表者が行い,残りの一部を別途学内予算より計上した.また,海外共同研究の実施に際し,今年度は研究代表者が渡航するのではなく,海外共同研究者が来日し,その費用を別予算から計上した.そのため未使用額が発生した.次年度は研究代表者の渡米や国内研究集会への参加のための旅費,また解析作業依頼のための謝金などに使用する計画である.
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