研究課題/領域番号 |
17K00099
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平石 拓 京都大学, 学術情報メディアセンター, 助教 (60528222)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プログラミング言語 / 並列・分散処理 / 高性能計算アプリケーション / 知識発見とデータマイニング / 探索・論理・推論アルゴリズム |
研究実績の概要 |
提案しているタスク並列言語Tascellおよびその基盤技術に関する開発を進めた. 分散環境対応の実装の改良として、マルチスレッド対応のMPIライブラリ実装を用いたTascellの通信機構の実装について、デッドロックを引き起こす可能性があった部分についての修正を行った.また,従来の双方向通信を用いた実装に加え,片方向通信を用いた実装を行った.これらの実装の性能を京都大学のスーパーコンピュータ上で評価・分析した.双方向通信版の実装では従来よりやや優れたアプリケーション性能が得られ,また,片方向通信版では大きなサイズのデータ通信に対して良好な性能が得られる可能性が示唆された. また,スティールの要求先を「優先度」あるいは「重み」という各ワーカが設定した指標に基づいて選択する方式を実装し,従来提案していた方式より優れた性能を得られることを確認した.これらの結果は国際会議で発表した. さらに,Tascellの記述性改善のため,分散環境対応のために他のタスク並列言語に比べて多いプログラム記述を要求していた従来の問題点を解消する言語拡張を行った. 応用に関する研究として,密行列の圧縮表現であるH行列の生成過程における行列の区分け処理のTascell実装について,性能改善に取り組んだ.ワーカ間のメモリ競合を避けるため,動的に確保するメモリ領域のサイズを調整することで従来実装を大きく上回る性能を実現できることを確認した.また,各計算コアのデータアクセス領域が一定の範囲内に集中するようにタスクスケジューリングを調整することで性能をさらに改善させる方式についても検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたアプリケーションの性質を利用したワークスティール戦略の改善について,当初予定していた方式とは異なるものを開発したが,結果的に良好な性能を得られることが確認できた. アプリケーションの開発については,当初予定していたグラフアプリケーションからH行列生成にメインターゲットをシフトしているが,アプリケーションの性質を利用したワークスティール戦略を採用しなければ特に分散環境において良好な性能を得られないという点において両者は類似したものである.H行列で得られた結果の一部はグラフアプリケーションにも適用できるものと考えている. 記述性拡張のための言語拡張は当初予定していたものではないが,今後円滑にアプリケーションの開発を進めるにあたって必要な研究である.
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今後の研究の推進方策 |
Tascellの通信機構の実装の改善として,これまでのMPI実装についていくつかの改善すべき点が見つかったため,その改善に重点的に取り組む.アプリケーションの性質を利用したワークスティール戦略の改善についても,特に各ワーカがアクセスするデータ範囲を意識した戦略について引き続き開発を進める. 対象とするアプリケーションとして,当初予定していたグラフアプリケーションに加え,H行列生成についても開発を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19拡大の影響で複数の研究発表および情報収集のための出張がキャンセルとなったため.事態終息後に予定していた発表等のための旅費・学会参加費として,あるいは発表を予定していた成果を雑誌論文として公開するための掲載料に用いる.
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