本研究では,無線センサネットワークエリアの広域化および送信機の低消費電力化に主眼を置き,スペクトル拡散方式(M-ary SS方式)を活用したOFDMベースバンド伝送方式の電力利用効率ならびに回線利用効率を明らかにすることを目的としている. 2019年度は,これまでの研究で得られたM-ary SS方式の有効性を十分に発揮するようなパラメータ設定を明確にするために,従来の繰り返し符号化方式とスループット特性を比較した.M-ary SS方式は,拡散符号長を長くすることで,伝送レートは犠牲になるものの,低CNR環境下でのスループット向上効果が期待できる.同様に,繰り返し符号化方式は,繰り返し送信数を増やすことで同様の効果を発揮する.M-ary SS方式は,電波伝搬が安定的な熱雑音環境および仲上-ライスフェージング環境において良好なスループット特性が得られることを定量的に明らかにした.電波伝搬が劣悪なレイリーフェージング環境では,高CNR環境下においては,M-ary SS方式よりも繰り返し符号化方式の方が良好なスループット特性が得られるが,低CNR環境下においては,M-ary SS方式の方が良好な特性が得られることを定量的に明らかにした.その要因として,M-ary SS方式は,全ての拡散符号の候補に対して最尤系列推定を実施しており,低CNR環境下でその効果が発揮されたと考えている. 実世界とサイバー空間が相互連携したCPS/IoT社会に対する期待は様々で,必要とする無線センサネットワークの形態も様々であることから,無線エリアの広域化に関する発展的な検討として,位相オフセットを活用した繰り返し符号化方式についても検討した.繰り返し送信の際に,情報ビットに応じた位相オフセットを付加する方式であり,繰り返し符号化の利点を活かしつつ,スループット特性の向上効果が期待できることを明らかにした.
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