研究課題/領域番号 |
17K00128
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
白石 陽 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (90396797)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高度道路交通システム(ITS) / プローブ情報システム / 参加型センシング / 時系列データ / 車両挙動分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,交通プローブ情報の共有のための運転行動の時系列性を考慮した車両挙動分析手法を提案することである.提案手法では,SAX (Symbolic Aggregate Approximation) を用いて時系列センサデータの文字列化を行い,文字列化されたセンサデータに N-gram を適用し,部分文字列を抽出する.その上で,特徴的な部分文字列を抽出し,車両挙動を表現する. 2018年度は,まず2017年度から取り組んできた出現頻度に着目した特徴的な部分文字列抽出手法に関する検討を進めた.車載スマートフォンを用いて走行時の加速度・角速度センサデータを収集し,代表的な車両挙動(直進,右折,左折,右車線変更,左車線変更)の分類実験を行った.実験の結果,左右方向の動きに関する角速度センサデータに基づく車両挙動分類において,特徴量の次元数を削減しながらも高精度に車両挙動を分類できており,提案手法が車両挙動推定に対して有効であることを示すことができた. また,提案手法では,センサデータの文字列化の過程でランレングス符号化を行うが,部分文字列の出現頻度のみに着目した場合,ランレングス符号の数値部分を考慮しないため,ドライバーの個人差によって発生するような運転行動の変動時間の違い(例えば,緩やかな車線変更なのか,急激な車線変更なのか)を区別することができない.そこで2018年度は,この課題解決に向けて,MDL (Minimum Description Length) 原理に着目し,基礎的検討を進めた.運転行動の変動時間(すなわち,部分文字列の時間長)を考慮することができれば,個人の運転特性を考慮した車両挙動分析が期待できる.「右折」の車両挙動時のセンサデータを対象とした基礎実験を行い,部分文字列の出現頻度と時間長の観点において,特徴的な部分文字列を抽出できることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度より着手している部分文字列の出現頻度に着目した方法を用いて,特徴的な部分文字列から構成されるBoW (Bag of Words) モデルに基づいた車両挙動分類を行った.走行時の車載スマートフォンから収集したセンサデータを用いて代表的な車両挙動の分類実験を行い,その実験結果から一定の有効性を示すことができたと考える.加えて,2017年度からの課題であった運転行動の変動時間の違いを扱うために,情報圧縮技術の一つであるMDL原理に着目し,課題解決に向けた有効なアプローチとして基礎検討を進めることができた.センサデータを文字列化することで,N-gramを始めとする様々な自然言語処理技術を適用することが可能となり,ITS (Intelligent Transport Systems) 分野における車両挙動分析の方法として新規性の高い手法を検討できていると考える.また,これらの研究の対外的な成果として,部分文字列の出現頻度に着目した車両挙動分析手法については,ジャーナル論文として採録され,部分文字列の時間長を考慮した車両挙動分析手法についても,国内研究会で発表を行っている. また,提案手法の応用可能性について多角的に検討するために,自動車による交通プローブ情報の共有だけでなく,自転車ユーザによるプローブ情報の共有も視野に入れて,自転車走行時の車両挙動センサデータを収集し,路上障害物の検知などの車両挙動分析手法の検討も進めている. 以上より,おおむね順調に研究は進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,本研究課題の最終年度であるため,プローブ情報の共有に向けた車両挙動分析手法の確立を目指す.まず,部分文字列の出現頻度と時間長を考慮した手法について有用性を示すための評価実験を行う.また,車両挙動分析を行う上では,複数種類の時系列センサデータの関係性を調べる枠組みが必要であるため,センサデータ文字列間の分析技術の検討を進める.例えば,同じタイミングで出現する特徴的な部分文字列を抽出できれば,車両挙動の分類に有効であると考えられる.さらに,これまでの研究では,車載スマートフォンで収集した加速度・角速度センサデータを対象としているが,提案手法の適用可能性を示す上では,車載ネットワーク(CAN: Control Area Network)から得られる車載センサデータも有力な分析対象である.そこで,走行時の車載センサデータの収集も行い,収集したデータを利用して提案手法の適用可能性について検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は,ジャーナル論文の投稿に伴う作業を始めとして,提案手法の深化や改良に向けた検討に時間を要し,予定していた追加実験や対外発表を行うことができなかった.そのため,実験機材の購入費用,実験協力者への謝金,対外発表に関する旅費などの支出が予定より少なく,次年度使用額が生じた.しかしながら,ジャーナル論文の採録は主要な研究成果であり,論文投稿のプロセスの中で,研究課題の明確化が進み,今後の研究推進に向けた知見も整理されたため,研究計画全体への影響はなく,円滑な研究の実施が期待できる. 2019年度の研究予算の主な使途は,追加実験のための実験機材の購入および実験協力者への謝金,研究成果の対外発表のための旅費・参加費などである.
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