研究課題/領域番号 |
17K00167
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 欣司 京都大学, 情報学研究科, 特定准教授 (10447899)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 櫻井杉浦法 / 列空間 / シフト付きコレスキーQR分解 / DQDS法 / OQDS法 |
研究実績の概要 |
大規模並列計算環境に適した新しい部分特異対計算法の開発という目標に対して、平成29年度は、分割統治法の調査と改良を目指した。調査については、完了したが、直接的な改良については、行わなかった。理由は、分割統治法の研究が進まない場合の選択肢として計画に掲げた櫻井・杉浦法について、さまざまな改良のための知見を得られたためである。その知見を実装し、その効果を検証することに多くの時間が必要であった。加えて、櫻井・杉浦法を改良するための知見は、分割統治法を改良するためにも活用できるため、そちらを優先的に行った。 具体的には、以下の研究を行った。まず、所望の特異値の数が、並列数よりも多い場合という従来からの研究テーマを見直すと、細長い長方形行列のQR分解がボトルネックになっていることが判明した。その問題を克服するため、シフト付きコレスキーQR分解を採用することを考えた。しかし、シフト付きコレスキーQR分解において、適切なシフト量を導入することは、非常に難しい問題であり、その問題の解決策を考える必要であった。それに成功すると同時に、他の応用先として、櫻井・杉浦法が存在することを認識した。櫻井・杉浦法においては、細長い長方形行列の列空間を必要とする。その前処理として、シフト付きコレスキーQR分解を利用する実装を行った。加えて、R行列から生成される上2重対角行列Bあるいはその転置行列Lに対する高速な列空間の構成法として、DQDS法とOQDS法を併用した方法を考案した。具体的には、DQDS法によってすべての特異値の値を計算し、特異値の分布を調査する。すると、列空間の次元と零空間の次元が確定する。そして、OQDS法によって零空間を計算すると、その補空間として列空間を得られる。この手法についても実装し、その性能を検証した。他の応用先として、特異値分解の前処理にも活用できるため、その実装もおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模並列計算環境に適した新しい部分特異対計算法の開発という目標に対して、平成29年度は、分割統治法の調査と改良を目指した。調査については、完了したが、直接的な改良については、行わなかった。そのため、計画の通りに研究を進めているとは言えない。しかし、応募書類にも記載した、別のアプローチである櫻井・杉浦法について、さまざまな改良のための知見を得られ、それらを実装し、その有効性を検証できた。加えて、櫻井・杉浦法を改良するための知見は、将来、分割統治法を改良するためにも活用できるため、研究期間の3年間全体から見た場合、おおむね順調に進展しているといえるだろう。さらに、櫻井・杉浦法を改良するための重要な技術であるシフト付きコレスキーQR分解の応用先として、多くの問題の解法が想定されるため、計画以上の進展をしているとも言えるだろう。特に、応募書類を書く段階では想定していなかった特異値分解の前処理を高速化する研究にも活用できた事実から、今後、シフト付きコレスキーQR分解がさまざまな問題の解法に応用できることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度の前半は、平成29年度に開発した列空間の高速計算の手法を応用して、櫻井・杉浦法の実装の高速化をおこなう。櫻井・杉浦法は、はじめに複数の連立一次方程式を解く必要があるため、その部分の実装も行う。さらに、列空間の計算の後、小規模な固有値問題を解き、最後に、後処理を行う必要がある。そのため、櫻井・杉浦法の全体の実装を行うには、多くの時間が必要である。そのすべてが完了した後、平成30年度前半の時点で、櫻井・杉浦法については、マニュアルも含め、ソースコードを公開する。 平成30年度の後半は、当初の計画の通り、応募書類に記載したアイディアと上記の櫻井・杉浦法の実装の改良において採用したアイディアを併用して、分割統治法の実装の改良を行う。平成31年度は、平成30年度の後半に実装する分割統治法の実装コードと、平成29年度に作成した、シフト付きコレスキーQR分解による特異値分解の前処理のコードを結合して、マニュアルも含め、ソースコードを公開する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「スパコン利用負担」として、300000円を予定していたが、科研費が採択されたことを知ったのは、スパコンの主な利用者を募集した後であり、応募書類に記載した通りの規模のノードを確保することは、もはや、不可能であった。そのため、スパコンを統括する部局との契約が、応募書類に記載したノード数と比べ、規模の小さい契約になった。加えて、スパコンを使用可能な期間も短くなった。そのために、実際の「スパコン利用負担」は、50000円であった。以上が、「次年度使用額(B-A)」欄が「0」より大きくなった主な理由である。平成30年度は、所属が変更になった。特に、スパコンを持たない教育機関への転出をおこなった。スパコンを持たない機関であったとしても、研究の進展が停滞しないようにすることを目的として、応募書類に記載した通りの研究内容を遂行するために、平成30年度として請求した助成金と合わせ、高性能な計算機を購入することを計画している。
|