今年度は、部分特異対計算法であるAIRLB法の改良を行った。具体的には、その下位部品としてOQDS法を採用することで、AIRLB法がより高精度な特異対を計算可能となった。さらに、部分特異対の計算法の一つとしても解釈できる櫻井・杉浦法について、新たな下位部品を作成した。これまで、櫻井・杉浦法には、両側ヤコビ法が有力であるとして研究を行ってきたが、並行して、片側ヤコビ法の改良も行ってきた。すべての改良案を導入した後、両者を比較すると、櫻井・杉浦法には、片側ヤコビ法のほうがより適切であると判断できる実験結果を得た。一方、両側ヤコビ法については、特異スペクトル変換法に有効であることが判明した。両者の研究成果とも、年度内に論文の形式で採録されている。当初の計画にあった分割統治法の改良については、微小な最小特異値の計算精度について、分割統治法がニュートン法を基礎とするという事情から、高精度計算を達成できないという問題に取り組んだ。そこで注目したのが、DQDS法とOQDS法である。DQDS法とOQDS法は、大規模並列計算環境においては、下位ルーチンとしてならば有効に機能する。櫻井・杉浦法がその代表例であるが、それ以外にも、最小2乗法における過学習の抑制のためのcondition L-curveの計算がある。具体的には、LSQR法やLSMR法が生成する2重対角行列の一部の特異値を計算する。LSQR法やLSMR法が計算の主要部分を占めるため、condition L-curveの計算については、必ずしも全ノードを計算に参加させる必要はなく、むしろ、微小な最小特異値を計算の対象とするという困難を克服するほうが重要である。実験の結果、DQDS法とOQDS法は、その目的に適した解法であることが判明した。大規模並列計算環境においても微小な特異値を安定に計算できる解法を構築することは、今後の課題である。
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