研究課題/領域番号 |
17K00183
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
山本 博章 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (10182643)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 検索可能暗号 / 文字列検索 / DAWG / 有限オートマトン |
研究実績の概要 |
本年度は下記の事項を実施した。 1.拡張型DAWGを用いた部分文字列検索可能暗号の開発:申請者が開発した従来のDAWG(directed acyclic word graph)を用いた部分文字列検索可能暗号は、構造が複雑であり、弱い安全性しか満たしていなかった。申請者は、DAWGをその状態遷移の記号がすべて異なるように改良した拡張型DAWGを考案し、それを用いた新たな部分文字列検索可能暗号を開発した。状態遷移の記号がすべて異なることにより、ランダム性の高い暗号化索引を作成できる。したがって、拡張型DAWGを用いた手法は、安全性が高く、かつ単純な構造をした暗号化索引をもつ。 2.ファクターオラクルを用いた部分文字列検索暗号の開発:申請者は、拡張型DAWGを用いた部分文字列検索暗号について、その暗号化索引をより省スペースにするため、ファクターオラクルを導入した手法を設計した。ファクターオラクルは、DAWGと同様に、文字列から作られる有限オートマトンで、文字列のすべての部分文字列を受理するが、認識において偽陽性を発生する。しかし、この偽陽性を許すことにより、DAWGよりサイズを小さくすることができる。このことを利用し、検索での処理を少し増やすことで、索引サイズを小さくする手法について提案した。 3.正規表現による検索が可能な検索可能暗号の開発:正規表現における検索は、柔軟な検索を提供する。本研究では、正規表現による検索を暗号化するため、ブルームフィルタを用いた手法を提案した。提案法は、正規表現を有限オートマトンに変換し、それを暗号化してブルームフィルタに格納する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DAWGの性質を詳細に調べることにより、検索可能暗号に適した拡張型DAWGを考案し、安全性が高く、単純な構造の暗号化索引をもつ新たな部分文字列検索可能暗号を設計することができた。さらに、拡張型DAWGの考えは、DAWGの省スペース版であるファクターオラクルへも適用することができ、省スペースな部分文字列検索可能暗号を実現した。また、一般的な検索である正規表現による検索の暗号化についても検討することができた。
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今後の研究の推進方策 |
下記の点について研究を進める。 1.拡張型DAWGを用いた部分文字列検索可能暗号の改良と実験的評価:予備実験による評価では、拡張型DAWGを構成する部分が最も時間のかかる部分となっている。大規模なデータを扱うためには拡張型DAWGを構成するアルゴリズムを改良する必要があるため、これについて研究を進める。検索時間に関しては、高速に検索できることが確認できている。 2.動的データに対応した検索可能暗号の設計:提案法は静的データに向けた手法となっている。すなわち、あらかじめ、すべてのデータが与えられ、追加・削除等は考えていない。多くの応用においてデータの更新が行われる。そこで、今後の研究では、データの更新が発生する動的なデータに対応した検索可能暗号の開発を目指す。 3.正規表現に向けた検索可能暗号の改良:ブルームフィルタを用いた手法の改良を目指す。現手法の問題点は、ブルームフィルタで発生する偽陽性とテキストの暗号化である。テキストの暗号化については、現状は、文字列単位で暗号化しているだけなので、頻度情報が漏れてしまう。今後の研究として、接尾辞木などの先進的なデータ構造を利用することにより、より安全な手法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
安全性や効率性に関し、より優れた手法を追求した結果、最終年度に安全性が高く効率的な手法を設計することができた。提案した手法の理論的な解析や実験を実施することはできたが、国内外での学会等での発表、論文誌への投稿が十分できなかったため、次年度使用額が生じた。今後の使用計画は、補助事業の目的をより精緻に達成するために、提案法に対する追加実験を実施し、より詳細な検証を行い、国内外の学会での発表や論文誌への投稿を行うために使用する。
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