難聴は加齢にともなう認知機能の低下の前駆症状と認識されてきているが、認知機能低下やその原因とされる海馬の萎縮に難聴が直接的に関与しているのか、間接的に関与しているかはいまだ議論が多い。本研究では、高齢者において難聴が海馬の脳構造の変化に直接的に関与しているかどうかを検討した。対象は40例の高齢者とし、純音聴力検査、語音聴力検査、血液検査、脳MRI検査を行い、純音聴力検査で500、1000、2000、4000Hzの平均聴力レベルが40dB以上(中等度難聴群)と40dB未満(軽度難聴群)の2群での違いと、各パラメータ間の年齢の影響を除外した偏相関を求めた。中等度難聴群は軽度難聴群に比べて、HDLが高く、GFRが低く、CRP+IL-6+TNFaの合計値が高く、VSRADにより計測した海馬の萎縮率が高い結果となった(p<0.05)。また、Cortisol/DHEAS(C/D)比、高周波域の聴力レベルおよび海馬萎縮率は相互に相関を認めたが、C/D比と年齢を除外した偏相関では、海馬萎縮と高周波聴力レベル間の相関は認めなかった。中周波数域の聴力レベルはMDA-LDLおよびAibと相関性を認めた。高齢者において、C/D比高値が高周波の難聴レベルを進行させ、また酸化ストレス、高カロリ摂取は中周波数領域の聴力レベルを悪化させる。結果として、C/Dが高い高齢者では難聴が進むとともに、海馬の萎縮が促進すると考えられる。そのため、難聴は認知機能低下の促進因子と思われてきている可能性がある。実際のところは難聴と認知機能低下の関連は非間接的なメカニズムで起こっていると結論付けた。
|