研究課題/領域番号 |
17K00205
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
篠原 一光 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60260642)
|
研究分担者 |
紀ノ定 保礼 静岡理工科大学, 情報学部, 講師 (00733073)
木村 貴彦 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 教授 (80379221)
北村 昭彦 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (70807817)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 拡張現実 / 単眼 / ヘッドアップ・ディスプレイ / 視覚的注意 / 視覚探索 |
研究実績の概要 |
本年度は単眼拡張現実提示を利用時の認知プロセスを明らかにするという目的に関連して、視覚探索課題(複数の視覚刺激の中に予め指示した刺激が含まれるか否かを判断する課題)を用い、拡張現実像(AR像)が提示されている目と、AR像が提示されていない目の入力される視覚情報を選択的に利用できるかを検証する実験を行った。刺激としては、赤色X、赤色T、緑色Tがあり、標的は緑色Tとした。拡張現実像(AR像)側と、現実像(背景像)にそれぞれ視覚探索の対象刺激を提示し、それぞれの像での色は一定とした(例えばAR像の刺激は緑、背景は赤)。実験では、AR像または背景像のどちらに標的が出るかの手がかりを提示後に、視覚探索刺激を提示した。独立変数として、妨害刺激の観察方法(両眼・単眼)、妨害刺激数(8個、16個)、手がかりが示す標的出現像(AR像、背景像)、手がかりの妥当性(valid、invalid)とした。実験参加者は標的の有無を判断して反応し、その反応時間と正答率を従属変数とした。 背景像に標的が出ると予告した場合、AR像が単眼提示の場合には実験参加者はAR像を無視し、AR像非提示側の目の視覚情報を選択すると予測した。これが可能であれば形だけで標的有無を判断できるため(特徴探索)、反応時間は刺激個数に影響されないと予想される。一方、AR像を無視できない場合には、実験参加者は色と形という2つの基準で標的有無を判断しなければならず(結合探索)、反応時間は刺激の個数が多い方が長くなると予想される。 実験の結果、観察方法に関わらず反応時間は刺激数が多い方が長くなった。また手がかりの妥当性の効果は見られなかった。このことから、AR像が提示されない目の情報を選択し、もう一方の目からの情報を無視することは難しく、この実験ではAR像または背景像のいずれかに選択的に注意を向けることはできなかったことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度においては、単眼AR利用時の認知プロセスについて実験的検討を実施する予定だったが、これについては実験を実施できたため予定通りの進捗である。一方、単眼ヘッドマウントディスプレイ(Head-Mounted Display: HMD)を使って実際の行動場面での研究に着手するという計画については実施できていない。単眼HMDによる実験の予備的検討は実施したが、予想以上に視認性が悪く、従来ヘッドアップディスプレイで実施してきた課題をそのまま単眼HMDによる実験に持ち込めないことが判明し、課題や実験の再検討が必要になったためである。このためやや遅れているという進捗状況であると判断したが、この点は次年度において進捗させる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
単眼AR利用時の認知プロセス検討については実験的検討を継続して行う予定である。これまでは反応時間等の行動指標に着目した研究を行ってきたが、今後は事象関連電位(ERP)を用いて、単眼または両眼で情報呈示した場合の視覚的注意の反応に着目した研究を行う予定である。ERPの測定は当初計画になかったものであるが、行動指標での限界があることや、生理心理学を専門とする研究者の参画が実現することから、単眼AR利用時の認知プロセスをより詳細に解明するうえで、これは有益な方針であると考えている。 またこれまで検討できていない単眼ヘッドマウントディスプレイ(Head-Mounted Display: HMD)を使いた実際の行動場面での研究も、現在直面している問題を解決して実施することとしたい。自分の前方で作業用機械を使って作業している際に作業者が装着した単眼HMDに情報を提示することが、作業効率や疲労等に対してどのような影響をもたらすかを検討すること等を想定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
成果の論文投稿が本年度中にできなかったこと、および、旅費以外について全体として当初予想していたほどに経費がかからなかったことが原因である。次年度はオープンアクセスジャーナルへの投稿を予定しており、次年度繰り越し分をこれに充てたいと考えている。
|