研究課題/領域番号 |
17K00210
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
森島 泰則 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (20365521)
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研究分担者 |
高野 陽太郎 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (20197122)
直井 望 国際基督教大学, 教養学部, 上級准教授 (20566400)
ローランド ダグラス 早稲田大学, 理工学術院, 准教授(任期付) (60749290)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第二言語処理 / 心的イメージ / 道徳ジレンマ課題 / 認知的負荷 / バイリンガリズム |
研究実績の概要 |
本研究は、外国語(第二言語、以下L2)を理解する際に、その言語処理が思考作業に及ぼす影響に関する研究で、L2処理における認知的負荷によって、高次の思考作業への干渉があるのかを明らかにすることを目的としている。本年度は、道徳ジレンマ判断における心的イメージへの影響を検証した。コロナ禍の中、実験室での対面実験を実施できないという状況が続いたが、認知心理学分野では世界的傾向として、一定の条件を満たせばインターネットを介したオンライン実験(行動指標計測)の妥当性が認められるようになった。そこで、我々もオンライン実験を導入し、実験を行った。 母語(L1)に比べ、L2では道徳ジレンマ判断は功利主義的になる傾向が見られること(Costa et al., 2014, Hayakawa & Keysar, 2018)に着目し、心的イメージを促す教示を与えることによって、道徳ジレンマに対する心的イメージの効果を検証した。その結果、教示を与えた実験群では、教示後の道徳ジレンマ課題において心的イメージの増加が見られたが、対照群では見られなかった。また、実験群の道徳的判断では、教示前の課題(プレテスト)と比べ、教示後の課題(ポストテスト)で義務論的判断へ移行する割合に有意傾向が見られたが、対照群では有意ではなかった。これらの結果を合わせると、実験群で見られた義務論的判断への移行は、心的イメージの強化によるものと考えられ、意図的に心的イメージを促さなければ、L2処理の負荷により、心的イメージが十分に機能しないことが示唆された。 この成果は、学内の紀要に「ノート」として発表し、2022年8月にノルウェーで開催されるバイリンガル、L2言語処理に関する学会に採択されている(ただし、目下の感染状況では、対面のみの開催となれば発表は辞退の予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍のもと実験室での対面実験ができないという困難な状況の中で遂行せざるを得ないのが現状である。その中で、最大限の努力を重ね、オンライン実験を活用することにより、研究課題の解明につながる実証研究を行うことができ、一定の成果を導き出せた。オンライン実験においては、実験参加者の確保からはじまり、実験環境や手順の統制など多くの課題があることも判明した。 一方、脳機能計測を行う実験は、対面で行う必要があり、そのような実験は実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、これまで行ってきた研究結果を総括する段階に来ている。今後の推進方針は、実験室実験の再開を前提に、脳機能測定による実験を行う計画である。また、これまでの成果を国内外の学会での発表、国内外の専門誌への投稿論文発表を通して公開して行きたい。学会発表に関しては、欧米では対面による学会の開催が増加しているが、現在のコロナウイルス感染状況ではまだ対面開催の場に行くことは躊躇される。一方で、発表の機会を逃すことにもなり、判断が難しい。感染の沈静化が見られるまでは、特に海外での研究発表は、オンラインまたはハイブリッド開催される学会を前提に行っていく方針である。国内での発表についても、基本的な考え方は同じであるが、状況に応じて柔軟に対応したい。論文執筆も積極的に行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染が収束しないため、2021年度も研究遂行に影響があった。実験室実験に代わってオンライン実験を導入したが、実験手順の変更・修正、そのため検討などに時間を要した。また、実験参加者確保も容易ではなかった。オンライン実験は行動指標計測に限られた。そのため、当初計画したようには実験が進まなかった。そこで、状況の改善を期待して、次年度に延長することにした。その前提のもと、実験機材(実験用コンピュータなど)を購入する。 当初は、国内外の学会等での研究成果発表を計画していたが、コロナ禍のもとで学会開催がオンラインやハイブリッドになった。そのため、学会参加・発表にともなう出張が発生せず、その経費の支出もなかった。次年度、感染状況の改善を前提として、できる限り機会を利用して成果発表を行っていく。それにかかる経費に充てる。
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