研究課題/領域番号 |
17K00213
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
岡部 大介 東京都市大学, メディア情報学部, 教授 (40345468)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インフォーマルな学習 / 日常認知 / 創造 / フィールドワーク |
研究実績の概要 |
近年,カスタマイズ,改変,または自作することを通して,自分の要求に可能な限り合致しているものを入手しようとする傾向が強まっている.大量かつ効率的に生産することよりも,日常的な経験を通して個々人にとって意味あるものを創出し,生涯に渡り知識や技術を獲得し蓄積していくことで,学びの楽しさや喜びを得ることへのニーズが高まっているとも言える.このような背景のもと,認知科学の領域においても「創造活動を専門としているわけではないが,個人的創造性の達成を主たるモチベーションとしながら,何らかの形で創造活動に携わる人」を「創造的教養人」と表現し,こうした日常の中で創造活動を楽しむ態度や習慣の獲得に着目した研究が注目されている(縣・岡田, 2013など). 本研究では,生活のなかでの創作,特に伝統的な工具および近年のデジタル工作機械を用いた製作活動を行う生活者に焦点をあてたインタビューと観察を行っている.このような生活のなかでの創作は,学校外における「インフォーマルな学習」のひとつと捉えられる. 2017年度のインタビューと観察調査を通して,思い通りにものづくりをすることは容易なことではなく,経験と知識,そしてその修得のための学習環境が必要となることが見てとれた.現在,調査対象者へのインタビューおよび観察データを逐語化し,カテゴリ化を試みている.それと同時に,インタビューと観察も継続して実施している. 加えて,ピアベースでの創作の環境をデザインし,その経験を学業やキャリア形成,社会参加に接続させていくプログラムの事例分析を並行して行っている.主にはConnected Learning Research Networkが牽引する学習環境デザインの先行研究を参照した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,創造的な製作をより幅広く楽しめる学習環境デザインモデルを提供することを目標に掲げている.現在,非商業的に(趣味の活動として)創作活動に従事していたり,商業的活動と非商業的活動のハイブリッドとして創造的な活動を行ったりしている人びとを対象に,初期のパイロットインタビューを実施した.調査対象者はいずれも,なんらかのデジタル工作機械を用いた創作活動を行っている.パイロットインタビューの対象者は8人で,得られたデータの分析(カテゴリ化)を行っている.主には,目的として掲げている,以下の事柄について分析している. 1.デジタル工作機械を用いて創造的な活動を継続している人びとを対象としたエスノグラフィ. 1-1.どのような事柄が,学習・活動履歴の可視化や,記録・管理として機能しているのか. 1-2.どのような事柄が,学習者どうしの相互評価や学習機会提供者からの認証につながるのか. カテゴリ化が進んだのち,同行調査の手法を用いたエスノグラフィックなデータ収集を開始する.上記と並行して,ピア(仲間)ベースでの創作の環境をデザインし,その経験を学業やキャリア形成,社会参加に接続させていくプログラムの事例検討を,主に米国の研究を中心に収集することができた.以上のように,おおむね計画に沿って研究を進めることができている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度および次年度では,調査対象者に対してより詳細なエスノグラフィを実施する.その上で,修了書等の学習成果の客観的な証明を伴わないインフォーマルな学習が継続する要因を抽出する.具体的には以下の2点に注力する. ・インタビューデータに基づく,個人によるものづくり学習のモノグラフ作成とそのモデル化. ・個人によるものづくりの学習環境を構築する上でのデザイン原則の考案,その評価と精緻化 米国のピア(仲間)ベースでの創作の環境をデザインする授業実践(先行研究)では,学校内における「興味に衝き動かされた学習(interest-driven learning)」(Barron, 2006)の展開が重視されている.今後の本研究では,制度的な教育機関のみならず.生涯学習としての創作活動の文脈を捉えていく.学校やテクノロジークラブといった文脈だけではなく,職業経験のある人びとが,仕事場を越えて協調的に課題解決に向かう学習場面を分析対象とする.また,どのような学習成果の可視化・活用の機会を伴うことで,ものづくりの活動が継続するのかについて重点的に検討する.学習科学においても,それまでの経験や修得したことを育て,その成果を少しずつ変化させ続けていきながら,日常生活の場において十分使いこなせるようになる「活用可能性」と「持続可能性」が,新しい学習のゴールの性質として強調されている(Miyake and Pea,2007).今後も,同行調査(シャドウイング)を中心とした創造的活動の現場のエスノグラフィと,同行調査で得られた動画をもとに調査対象者とともに振り返る「リフレクション・インタビュー」を中心にデータを積み重ねていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
新たな調査対象者として,2018年度は「地方」の居住者にもアクセスを試みる.2017年度は東京都と神奈川県に住まう人びとのみを対象としてきた.2017年度からリクルーティングおよび調査計画を進めており,次年度使用額はその調査のための旅費と調査協力者への謝金にあてる予定である.
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