個々人にとって意味のあるモノやコトを日常的に創作することで,愉しさや歓びを得ることへの関心が高まっている.経済成長のための手段として切り詰められた創造性だけではなく,市井の人びとの生活を彩る,こうした「普段使いの創造性」を研究の俎上にのせることもまた,認知科学の関心のひとつとなっている. 本研究では,今日の情報環境の特性をふまえながら,学校外におけるインフォーマルな学習がいかに生じ,どのような成果があるのか,その特性の概念化を試みることを目的とした. 本研究では,10名の調査協力者を対象に,「二人称的な関わり」に基づくフィールドワーク(参与観察,同行調査,リフレクション・インタビュー)の方法のもと質的なデータを収集した.フィールドワークの対象となった現場は,ピアベースでの創作活動の環境をデザインし,その経験を学業やキャリア形成,社会参加に接続させていくものであった. その上で(a)創造性と環境や状況との不可分性,(b)創作活動の協同的特徴,(c)創造性を認定する「他者からの社会的な眼差し」,(d)創作活動のための場を自分たちで耕す実践といった特性について概念化した.より具体的で詳細な内容は,研究期間内に刊行した論文や,書籍『ファンカルチャーのデザイン』(共立出版)にもまとめられている. 中央教育審議会生涯学習分科会の第 11 期報告では,人々が生成変化しながら交わり,継続的な活動を愉しむ状況は,分散型で共創的な社会の実現のため推進されている.ただし,個々人にとって意味あるものを創出し,知識や技術を蓄積していく愉しさや歓びを得るためには,「学習環境デザイン」も必要となる.日常的な創作活動を創造性研究の俎上にあげるなら,市井の人々の生活を彩る,「普段使いの創造性」に着目することもまた学術的意義となる.
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