研究課題/領域番号 |
17K00214
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
日高 聡太 立教大学, 現代心理学部, 准教授 (40581161)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 自閉症傾向 / 感覚閾 / 視聴覚相互作用 / 感覚間対応づけ効果 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,自閉症傾向の強弱と視覚・聴覚・触覚情報処理特性との関係性に関して検討した。80名程度の参加者を対象とした大規模調査・実験を実施し,参加者ごとに,日本版AQ score質問紙を用いて自閉症傾向の高低を測定した。全体的な自閉症傾向に加え,5つの下位項目(社会的スキル・注意の切り替え・細部への注意・コミュニケーション・想像力)のスコアを算出した。また,視覚・聴覚・触覚における検出閾(刺激の存在に気がつく閾値)と弁別閾(刺激の強度の差意に気がつく閾値)を測定した。全体的な自閉症傾向および5つの下位項目と各感覚閾値との間で相関分析および重回帰分析を行ったところ,各感覚閾値と下位項目との間で独自の関係性が見られた。特に,触覚の検出,弁別閾は社会的スキルの下位項目と関係するという結果は,触覚が社会性の形成に寄与するという従来の知見と密接に関係するものであり,注目に値する重要な知見と考えている。 また,80名程度の参加者を対象に,視聴覚間の感覚間対応づけに関する実験を行った。神経細胞の発火強度を手がかりとするとされる「光-音の強度」(明るい/暗い光と大きい/小さい音が対応)と,概念的・言語的に学習されるとされる「光位置-音高」(高い/低い位置と高い/低い音)について,光の強度や位置を判断させる課題を行わせ,感覚的に一致する音の提示が光の検出を促進するというような形の視聴覚間の感覚対応づけ効果と自閉症傾向との間の関係性について検討した。さらに,左右に動く光と音の高さの変化を3分間対提示すると,音が光の動きを駆動するようになるという新たな感覚間対応づけ関係が獲得される効果についても検討した。結果から,感覚間対応づけ間でそれぞれ,全体的な自閉症傾向および下位項目との関係性が異なることが示された。類似した現象であっても自閉症傾向が独自に関与する可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は,当初の計画を前倒しして実施することが出来た。当初は,感覚間対応づけ効果に関する検討および新たな感覚間対応づけ効果の獲得に関する検討について,平成30-31年度に実施する予定であったが,研究協力者の尽力もあり,またこれまでのノウハウと学外研究者からの技術補助を活かしながら,実験の実施とデータの取得を行った。平成29年度に実施する予定であった研究については,国際査読誌に投稿済みである。また,平成30-31年度に実施する予定であった研究内容については,両者をまとめた形で公表することでインパクトが高まると考え,成果を学会で発表するとともに,さらにデータを加えて国際査読誌に投稿済みである。以上のように,当初の研究計画以上の成果があがったといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
視聴覚相互作用において,類似した現象でも自閉症傾向の異なる側面が影響を及ぼす可能性が示唆された。したがって,物体の視覚的な運動の見え方が音によって変容するなど,その他の現象と自閉症傾向との間の関係性についても調べ,共通性や差異を深く追求する予定である。また,触覚情報処理と自閉症傾向との間に強い結びつきがあることも分かった。研究代表者は平成30年度に触覚情報処理において第一人者の研究室において在外研究を行う。そこで,さらに触覚情報処理と自閉症傾向との間の関係性を調べる研究を実施したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:平成29年度は研究の実施と成果公表準備に力を入れ,「人件費・謝金」を使用した。一方,その他の費目については支出がなく,その結果として次年度使用額が生じた。 使用計画:平成30年度は,在外研究をしながら研究課題を進める予定である。したがって,「旅費」区分から主に支出を行うと共に,成果公表における英文校閲費等の支出を「人件費・謝金」から行う予定である。他の区分についても当初の計画を考慮に入れながら慎重に使用を行う予定である。
|