令和元年度は,Stream bounce効果と自閉症傾向との間の関係性に関する知見をとりまとめた。Stream bounce効果とは,2つの円が画面の両端から互いに向き合う形で中央に向かって同一軌道上で等速に進み,中央で重なり,画面の反対側に進んでいく画面を提示すると円が中央ですれ違う(stream)知覚が主に生じるが,中央で重なった際に短いクリック音を提示すると,円が跳ね返る(円が中央で互いに進んできた方向に戻る,bounce)という知覚が途端に優勢になる現象である。72名の実験参加者に対して,円が重なるタイミングに対して音を提示するタイミングを様々に操作しStream bounce効果の生起頻度を調べるとともに,日本版AQ score質問紙を用いて自閉症傾向の高低を測定し,全体的な自閉症傾向に加え,5つの下位項目(社会的スキル・注意の切り替え・細部への注意・コミュニケーション・想像力)のスコアを算出した。特に興味深い結果として,コミュニケーションが不得手という特性が高いほど,音の提示タイミングが円の重なりよりもより遅れた場合にStream bounce効果の生起頻度が最大になることが分かった。また, Prof. Matthew R. Longo教授の研究室における在外研究の成果を発表し,培ったノウハウを活かし脳内身体表象と自閉症傾向の高低との関係性を調べる研究環境を構築した。 研究期間全体を通じて,視聴覚相互作用の時間的な処理の特異性とコミュニケーションや社会的行動の不得手の度合いが関連することが示された。また,自閉症傾向の下位特性が,それぞれ感覚情報処理の特異性との間にユニークな関係性を持つことが分かった。自閉症傾向特有の感覚情報処理特性は診断を受けていない群にも見られ,その理解のためには各自閉症傾向の多面的な関係性に着目する必要があることが示唆された。
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