研究課題/領域番号 |
17K00228
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
丸井 淳史 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (90447516)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 聴能形成 / 音色知覚 / 音響教育 |
研究実績の概要 |
本課題では、音楽作品や映像番組の録音技師を対象とした音の判別・識別能力向上のための訓練である「聴能形成」について、短期間かつ効果的に能力を身に付ける方法を確立すべく研究を行っている。訓練に使用する問題を準備する上では様々な楽曲から抜粋して音源を作成するが、どのような音源を選ぶとより効果が高い訓練になるかは明らかになっておらず、学習者が自習を行うときに自身で訓練用音源を作成・選択することが難しいのが現状である。 前年度までの研究では、訓練音の振幅スペクトルの起伏が大きいほど学習者が感じる問題難度は高くなるということが分かっている一方で、意図的に振幅スペクトルの形状を平坦に調整した音源であっても必ずしも正答率が向上するわけではないことが明らかになっている。これまでは音楽大学における音響教育の一環として実験データの収集を行っているため、実験としての統制が難しいという問題があった。そこで平成30年度においては、より実験計画を強固なものにするとともに訓練音や訓練難度の種類を増やしてデータの収集を行った。その結果、振幅スペクトルを平坦に調整することによって正答率に統計的有意な変化が起こるわけではないものの、全体的には正答率が下がる傾向にあることが分かった。たとえばこの原因の一つとして、使用した音源はプロの録音技師によって細部まで調整された十分に品質の高い音源であるため、いかなるスペクトル変更も劣化となり訓練に悪影響が生じた可能性がある。 これまでに、平坦なスペクトルのほうが正答率が低いにもかかわらず、学習者は易しいと感じるという、逆転現象の傾向が見られているため、難しく感じないが上級者向けの問題、難しいと感じるが正答率が高い問題など、学習者のモチベーションを下げない問題作成につながる聴能形成における主観・客観問題難易度推定モデルの構築に近づいていると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、研究代表者が想定していたのは主観的難易度と客観的難易度とにある程度の相関があるということであったが、平成29年度に引き続き平成30年度の綿密な実験計画においても両難易度に強い相関が見られなかった。構築中のモデルに修正が必要になると考えられる。 しかしながら、主観的難易度と客観的難易度とに相関が見られないのであれば、それぞれを個別に制御できる可能性がある。難易度を柔軟に操作・設定することができれば、今以上に効果的・効率的な聴能形成を行うことが可能になるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果ならびに平成30年度の成果について、それぞれ国際会議において発表し充実した議論を行うことができた。それら議論の内容から、今後の研究の推進方策としては、次のことを予定している。 研究代表者が担当している聴能形成の講義は引き続き開講される予定であるため、さらに回答データの収集を行う。この講義の中で、難易度推定モデルをもとに各回に適切と思われる音素材を準備し、実際の聴能形成講義において継続的に学習効果を測るとともに、適宜モデルの修正を行う。さらに多くの音源を用いた検討を行い、モデルの妥当性を高めてゆきたい。また、同大学の同学科に所属している聴能形成の講義を受けていない者を統制群とした比較実験を行うことで、聴能形成そのものの効果も測定するつもりである。 聴能形成に使用する音源の音響分析には、これまで振幅スペクトルの平均値(スペクトル中心)、振幅スペクトルの標準偏差、振幅スペクトルへの一次回帰式の傾き、ならびに回帰式からの合計誤差、の4つを用いていた。これらはヒトの聴覚モデルを考慮しておらず、また、楽音の時間変化も考慮できていない。そのため今後は聴覚フィルタを導入する、時間変化に対応する音響特徴量を導入するなどにより、難易度推定モデルの精度向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入予定であった機材類の購入を延期したことと、さらに昨年度から繰り越しとなった旅費によるところが大きい。次年度に必要となる実験機材ならびに国際学会参加の旅費として支出予定である。
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