咀嚼機能は人間の健康維持において重要な役割を果たしており、健康的な食生活を支えるとともに、咀嚼の身体機能や脳への影響が指摘されている。咀嚼は食物を口に取り込んでから嚥下に至るまでの一連の機能からなり総合的に評価する単一の方法はなく、機能要素で評価されている。超高齢社会では咀嚼に問題を抱える高齢者は多く、咀嚼機能を客観的、定量的に簡易に評価する手法が求められている。そこで、計測が容易なRGB-Dカメラを用いてデータ取得し機械学習を活用することで、咀嚼の状態および機能を評価する新たな認識・判定手法を構築した。 RGB-Dデータから得られる咀嚼時の顔の特徴量をもとに咀嚼状態、咀嚼機能を評価するための最適な特徴抽出法を検証し、顔のランドマーク取得による咀嚼回数の算出、咀嚼運動の評価パラメータの導出、咀嚼能力の評価、そして適切なフィードバック方法の検討を行なった。その結果、深度データの解析により、一咀嚼サイクル毎の開口時および閉口時の咀嚼運動の経路、速度、リズム、咬合筋の体積変化に咀嚼能力の高低による有意な差が見られることが示唆された。そこで、さらに顔の動画像データから詳細な動的特徴変化を抽出できるかを検証するため、高性能な画像認識が可能な深層学習手法を用いて評価した。咀嚼能力測定用グミゼリーを用いた咀嚼計測実験により取得した咀嚼時のRGB画像の時系列データに対して深層学習モデル3D-ResNetを適用し、咀嚼能力を評価する識別モデルを構築した。咀嚼時の口の動かし方には人によって癖があるため識別精度に個人差は見られたが、顔動画像から咀嚼の特徴を学習することで、咀嚼能力を高精度に評価できる可能性が示唆された。
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