本研究では,音声に画像を埋め込み,実環境で放射,そして受信した音声信号から画像を復元する手法を検討している.本手法は,音声の長時間フーリエ変換で得られた位相スペクトルで音声らしさを保持し,振幅スペクトルに画像を埋め込む.昨年度までに,実環境における復元画像の歪みについての検証と,効率的な画像埋め込み法の検討を実施した.昨年度までの結果では,音声や音楽信号などが,基本周波数とその倍音で構成されることを考慮し,パワーの強い音声スペクトルを保持し,音質にあまり寄与しないスペクトルのみに画像を埋め込む方法に切り替えた.また,簡単な画像補間技術を導入することで,復元画像の画質を改善する方法を提案し,学術論文として採択された.今年度は,音質劣化をさらに抑制するために,サンプリング周波数を44.1kHz以上に高くして,およそ19kHz以上の超音波に近い周波数帯域にのみ,画像を埋め込む方式を検討した.この際,画像を埋め込める領域が小さくなるため,画像の伝送時間が長くなる.そこで,オーバーラップ加算による,伝送時間短縮法について検討を行った.オーバーラップ加算を行うと,画像および音質が両方劣化する.そこで,反復位相復元法と呼ばれる位相スペクトル復元法を導入し,これを改善した.シミュレーションによる性能評価から,提案法の有効性を明らかにした.さらに,屋外での画像伝送実験を行い,汎用的なスピーカとマイクロホンを用いた場合には,画像を伝送できる距離が数mであることを明らかにした.さらなる長距離伝送のためには,昨年度までの方法で,低い帯域に画像を埋め込むか,あるいは,特殊なスピーカシステムの導入が必要となる.
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