広範囲を見渡すカメラでは画像中に占める一人あたりの人物の解像度が極端に低くなる場合が多く,人物照合の性能が大きく低下する問題がある.低解像度であっても個人を正しく照合できるシステムを実現できれば,一つのカメラで見守ることができる範囲が長大になり安心・安全な社会の実現に貢献できる.そこで本研究では,入力画像と辞書画像が共に極端に低い解像度であっても,与えられた人物画像の劣化過程に適切なリサンプリングで解像度を復元することで,人物を精度よく照合する方法を開発する.低解像度による劣化過程を画像劣化モデルとして新たに設計し,実証実験により照合性能が向上することを明らかにする. 前々年度では,低解像度に影響を受けない人物照合モジュールをシミュレーションデータで開発しており,前年度では,実環境の広角カメラで撮影した実データで開発してきた.最終年度である本年度では,照合性能が改善される理由の検証に,実データを解析しながら取り組んだ.実際のカメラで撮影された低解像度の人物画像を用いた前年度の実験結果により,アップサンプリングよりダウンサンプリングの前処理が,人物照合の性能を改善することが分かった.本年度の検証において,画像劣化モデルを考慮した周波数解析を用いて,ダウンサンプリングで精度が高まる理由を実験的に明らかにした.この様な検証実験は,調べた限りではあるが,世界で初めてである.本年度に実施した検証において,低解像度に合わせてダウンサンプリングすることで,人物対応付けに有効な低周波成分の特徴を残しつつ,照合に余分な高周波成分の特徴を除去したため,照合性能が高くなったことが明らかになった. 最終的に,当初計画した成果を達成する実験結果を得た.画像が極端に低い解像度であっても,与えられた人物画像の劣化過程に適切なダウンサンプリングを適用することで,人物を精度よく照合する方法を開発した.
|