令和元年度は,平成30年度に検討した方法と同様のもので個人の頭部の3次元形状をスキャンした.平成30年度は,この形状をデータとして3Dプリンタでプリントしたが,今年度は3Dプリンタでプリントせず,データのまま境界要素法による音場解析プログラムに入力して,計算で頭部伝達関数(Head-Related Transfer Function,以後HRTFと書く)を推定した. 先行研究から,個人のHRTFは高精度で推定できることが示されており,そのことを踏まえれば,頭部の3次元形状のスキャンの精度が高いという前提のもとでHRTFを高精度で推定できると考えられた.上記の3次元形状スキャンシステムは,個人の頭部の3次元形状を高い精度で得ることができるものであり,その点で,個人のHRTF取得のプラットフォームの一部を作成することができたといえる.しかし,計算に用いるコンピュータの計算能力(主記憶容量,計算時間)の制限から,上記の方法で得た3次元形状の精度を低下させたものをデータとして計算せざるを得なかった.その結果として,ダミーヘッドのHRTFの推定結果は,測定結果と概形としては同様の特性が得られたが,細部にわたっては一致しなかった.形状の精度を維持しつつデータ量を低減する方法や,頭髪部分のモデル化方法などについて検討すべき課題が残された. 平成30年度に検討した3Dプリンタを用いた頭部モデルによる個人のHRTFの推定手法は,今後学術論文として公表する予定である.また,HRTFのモデル化手法の一つである主成分分析に基づく方法については,HRTFの複素対数振幅領域における新しい方法を提案したとともに,主成分分析で再構成されたHRTFの精度の主観評価を行い,複素スペクトル領域での主成分分析は,他の領域に比べて効率的にモデル化できることが示された.
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