平成31年度は、まず、各受聴者の左右それぞれの耳の最小可聴閾値を測定し、刺激音の1/3 oct. 帯域音圧レベルと片耳に耳栓をしたときに単耳受聴状態となる刺激音の音圧レベルとの関係を調べた。その結果、帯域幅20 kHz の広帯域雑音では、その1/3 oct. 帯域音圧レベルが当該1/3 oct. 帯域の中心周波数における最小可聴閾値の音圧レベルを超えると、受聴者には広帯域雑音の一部が聴こえることを確認した。すなわち、広帯域雑音のスペクトルレベルを最小可聴閾値に耳栓の遮音量を加えた耳栓装着時の最小可聴閾値よりも30 dB以上低くしなければ、広帯域雑音に対して完全な単耳受聴状態を確保できないことがわかった。具体的には、100 Hz~20 kHz における遮音量が40~50 dBある耳栓で片耳を閉塞した場合、受聴者の最小可聴閾値の最小値は1 kHz の42 dBで、完全な単耳受聴状態を確保できる白色雑音の音圧レベルは40 dB、そのスペクトルレベルは10 dBであった。 次に、頭部運動時に知覚する音像が定位できるか、動くために定位できないかを判定基準として、完全な単耳受聴状態が確保される刺激音の音圧レベルを定めた。また、相反法によるHRTF高速計測システムを用いて受聴者のHRTFを測定し、音像知覚実験結果と照合することにより、HRTFのどの帯域が単耳受聴時の音像方位の知覚に寄与するのかを調べた。その結果、頭部運動に伴って音像が動くために定位ができない白色雑音の方位は、その音圧レベルが高いほど少ないこと、HRTFの高域が音像方位の知覚に寄与することがわかった。 また、単耳受聴時の頭部運動条件下で生じる大きな音像の移動と音像の分離知覚は、頭部運動に伴って音源方位が頭部の影となる境界を横切る場合に起こることがわかった。
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