研究課題/領域番号 |
17K00247
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
松田 一朗 東京理科大学, 理工学部電気電子情報工学科, 教授 (70287473)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 画像符号化 / 可逆符号化 / 学習型確率推定モデル |
研究実績の概要 |
従来の画像符号化手法では、画像信号の冗長度削減とエントロピー符号化の処理が独立に扱われていたため、特に非定常な性質を有する画像において符号化効率が低下するという問題があった。これに対し本研究課題では、従来の冗長度削減処理を非定常性も内包する確率生成モデルの学習問題と捉え、直接エントロピー符号器を駆動するアルゴリズムを提唱している。このアルゴリズムは、様々な映像データを効率的に圧縮するための統一的な手順を提供するものであり、多様化する映像情報メディアの蓄積・伝送手段として幅広く応用が可能であると考えられる。 本研究課題の実施初年度である平成29年度は、提唱するアルゴリズムの基本性能を明らかにすることを主眼とし、モノクローム静止画像を対象とした可逆符号化アルゴリズムの設計と実装を中心に研究を進めた。今回実装した符号化プログラムは、C++言語を用いて新規に開発したものであり、画像データのメモリ管理、準ニュートン法によるパラメータ最適化ルーチン、多値算術符号器などの主要モジュールは、オブジェクト指向プログラミングの特徴である拡張性を意識した設計となっている。これにより、今後の研究を継続するために必要なプラットフォームが構築できたといえる。 本研究課題の核となる学習型確率推定モデルに関しては、非近傍画素の波形パターンのみに着目した限定的な手法での評価ではあるが、最新の符号化方式と遜色ない符号化効率が得られることを上記プログラムを利用した実験により確認している。この成果については、第一報として査読付き国際会議論文に投稿中である。また、本研究課題に関連した周辺技術についても、既に査読付き国際会議を含む複数の学会にて発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画初年度である平成29年度は、アルゴリズムの検証のためのソフトウェア開発に重点的に取り組み、実際に圧縮ビットストリームを生成する符号化器と、対応する再生画像を生成する復号器を完成させている。これにより、モノクローム静止画像を対象とした可逆符号化方式の評価実験を実施する環境が整い、研究計画を大きく前進させることができたといえる。 学習型確率推定モデルの設計に関してはまだ改善の余地があるものの、現時点において近年発表された可逆符号化方式と遜色ない符号化効率を達成しており、最終的に既存方式を上回る符号化性能を達成可能であるという感触を得ている。 研究成果の公表については、基本的なアイデアをまとめた論文を査読付き国際会議に投稿済みである。また、並行して開発を進めていた周辺技術についても、成果が得られたものから順次査読付き学術誌や国際会議などで発表しており、引き続き本研究課題への統合を視野に入れて改良を加えている段階である。 以上のように、研究計画初年度に設定した目標はほぼ達成されており、現時点での進捗状況はおおむね順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、前年度に基本設計を終えた可逆符号化アルゴリズムの性能向上に取り組む。具体的には、近傍画素の相関を利用する仕組みなどを導入し、学習型確率推定モデルの精度を改善する。また、画像毎に最適化したモデルパラメータの量子化精度と記述方法について検討を加え、復号器側に伝送すべき付加情報の削減を図る。これらの工夫により、主要な既存方式を上回る符号化効率を達成することが当面の目標である。 これと並行し、提案アルゴリズムの適用範囲を動画像や限定色画像、さらに非可逆符号化方式などに拡張する検討も開始する。これら検討項目については、研究計画の最終年度となる平成31年度までに一定の成果を挙げられるよう、計画的に研究を推進する。 研究成果の公表についても、引き続き論文執筆および学会発表に積極的に取り組み、研究コミュニティからのフィードバックを得ることで完成度の向上を図りたいと考えている。本研究予算の一部は、そのための必要経費として計上する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた国内学会の開催日が査読付き国際会議の日程と重なり、後者への参加を優先したため国内旅費の支出額が若干減少した。 これにより発生した次年度使用額は、本研究課題に関連したテーマに従事する学生の学会発表旅費などに有効活用する予定である。
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