まず最終年度の研究成果について述べる.脳科学の知見を基に設計された深層畳み込みニューラルネットワークは社会に大きな変革をもたらすほどの活躍を見せているが,基となった脳科学的知見は古く,そして少ない.さらなる脳の情報処理の特質を投入することでより一層の進歩が期待されるものの,脳科学で解明が進むのは断片的な特定機能を有する細胞の性質についての知見が中心であった.そこで本研究課題では脳の視覚認知において重要な役目を担う図地分離の機能のニューラルネットワークの生成を目指し,これまで明らかになっている生理学的知見を断片的制約条件として与え,進化的計算の手法を援用して全体としてコンシステントなモデルとして獲得させる試みに取り組んだ.結果として任意の離合集散する経路を持った豊かな構造を持つネットワークを生成するに至った.適用したタスクを図地分離とは別のものに置き換えることも可能で,脳機能の理解のためのみならず,汎用的な深層畳み込みニューラルネットワークのアーキテクチャー生成法として活用することが期待される.今後は,現状のfeed-forward型のみの形態からの,リカレント型形態へと発展させるための方法を検討してゆく. 次に研究期間全体の研究成果について述べる.本研究課題では脳・視覚科学知見の深層畳み込みニューラルネットワークへの導入の可能性の検討の一環として,パターン認識における中心軸表現のもたらす有用性について調べたり,視覚系の大まかな近似とみなせるU-Netの図地分離やアモーダル補完等視覚機能のシミュレーションの可能性を調べたり,医用画像データを対象としたセグメンテーション能力の検討を行ったりした.さらには,Neocognitronを用いてモデルの識別率の良し悪しとネットワーク反応様式との関係について調べ,ハイパーパラメータの効率的策定法の足掛かりを得るなどした.
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