本研究課題では低照度環境下におけるシーンの画像再現に関して取り組んだ。最終年度ではスマートフォンカメラや一眼レフカメラ等から出力されたRGB画像とスペクトルカメラから得られた分光画像との較正法について取り組み,視覚特性に基づくトーン圧縮手法との統合を目指した。改善すべき点が多数残っており,引き続きこの課題に取り組んでいく予定である。 本課題では,景観形成や整備の場面において夜間景観の重要性を考慮することで研究の着想を得た。カメラで取得したシーン画像と実際の知覚が異なることはよく知られている。これは人の視覚は,色順応や明暗順応をはじめ,非線形な処理を経てシーン情報を理解しているためである。また,昼間景観と夜間景観のいずれにおいても明暗比が大きい領域が存在するため,ハイダイナミックレンジ(HDR)画像によりシーン情報を取得することが多いが,一般的なディスプレイのダイナミックレンジは8ビットであるため,ローダイナミックレンジ(LDR)画像への階調制御を行わねばならない。それゆえ,視覚特性を考慮したHDRシーンでの画像の見えを再現するための手法に取り組んだ。HDR画像を入力画像とし,シーンの輝度分布画像を利用したトーン圧縮を検討した。しかし,いくつかの環境下では,出力画像が不自然な見えになることを確認した。そこで改善手法としてシーンの特徴を反映した輝度分布画像を生成する手法を提案した。また別なモデルとして,輝度分布画像を利用せず,生理学実験から求められた網膜応答モデルの有効性も検証した。またHDR画像の獲得手法についても取り組んだ。近年は一眼レフカメラよりもモバイル端末に搭載されているカメラを利用した撮影が広く普及している。それゆえスマートフォンに搭載されているカメラからシーン情報の獲得手法についても検討し,その有用性を確認した。
|