本研究では,半透明物体の3次元形状を高精度に計測する新たな光学的計測法の開発に取り組んだ.半透明物体に投影した光は内部で散乱し(表面下散乱),入射した位置とは異なる位置から出射する.そのため,半透明物体の光学的3次元計測は困難な問題の一つとなっている.開発する計測法の特長は,この表面下散乱を積極的に活用する点にある.本手法が確立すれば,拡散,鏡面,透明,半透明といったあらゆる光学特性をもつ物体へ適用可能な3Dスキャナを構築することができ,その工学的価値は非常に大きい.最終年度となる2019年度は,主に以下の2つの課題に取り組んだ. まず1つ目は,光線追跡シミュレータによる表面下散乱画像データベースの作成である.開発したシミュレータにはコロイド粒子に関するパラメータとして,個数,大きさ,位置,透過率,屈折率が設定できる.すべてのパラメータを対象として画像を生成すると,計算時間とデータ量が膨大になるため,各パラメータの変化が表面下散乱画像の変化に与える影響度を解析した.その結果,コロイド粒子の個数と透過率の影響度が高いことが判明したため,この2つのパラメータを種々設定した場合のデータベースを作成した. 2つ目は,実物体の表面下散乱画像とデータベースにあるシミュレーション画像との照合である.この照合により類似度が高い画像を検出し,そのときのパラメータを実物体の内部状態を最もよく表現しているパラメータとみなす.実験では,実物体として透明度の異なる3種類の溶液を用意し,赤色レーザスポット光を照射したときの表面下散乱をCMOSカメラで撮影した.その結果,各物体ともデータベース中に相関係数が0.6程度の画像を抽出できた. 今後の課題は,これらのパラメータを使った光線追跡シミュレーションによる光出射位置の解析と,その結果を用いた3次元形状計測アルゴリズムの開発である.
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